千住の大橋の上に立つと、殊に東京の町外れだといふ感を深くする。橋の上を通って行く荷車、荷馬車、川岸には木材を並べた材木店などが夕日に彩られて、上流から下って来た筏が其処には一杯についてゐる。そしてその間を伝馬や荷足が縦横に往来して、ある船は橋の下をすぐる為めに、張って来た帆を巻き下さうとしてゐる。向ふ岸の小さな埠頭には、河を往来する小蒸汽がついてゐて、人がぞろぞろと乗ったり降りたりしてゐる。水はたぶたぶとして動いてゐる。向ふ製絨所から黒い煤烟が巴渦を巻いて上ってゐる。巡査が退屈さうにして、橋の袂にある交番の前に立ってゐる。(下略)
(田山花袋著『東京の近郊』大正十四年実業之日本社刊より)