千住宿に集散した産物を知る資料の一つに、千住橋戸町に頭取を置いた車力(荷車で物資を運送する職人)の議定がある※。千住橋戸町には荒川の河岸があり、ここで陸揚げされた物資が北の五丁目から南の掃部宿(河原町、橋戸町を含む)まで荷車で運ばれた。この運送料を取り決めるための議定であるが、物資別に運送料が書き上げられており、橋戸町の河岸に陸揚げされた物資が判明する。なお、本資料には「千住橋戸車頭取」の印が捺(お)されており、取り締りを行った頭取は千住橋戸町にいたことが判る。
※ 一八三三(天保四)年六月「議定帳」(足立区立郷土博物館蔵永野家文書)
上に掲げた一覧が千住橋戸河岸で陸揚げされ輸送された物資である。これを見ると食品類を始め肥飼料をはじめ、材木や石材などに至るまで多様な産物が取り扱われているようすが見える。残念ながら産地は判らないが、産物名の中には赤穂塩や斎田塩など中国地方の産物や薩摩の特産として知られた黒砂糖が記されており、遠隔地の物資も取り扱われていたと思われる。また江戸での消費より村方で消費されたであろう肥料や土壌改良材が入っていることから、江戸向けの産物だけでなく農村方面へ出荷する産物も含まれていたと思われる。物資によっては出荷元によって、車力職が取り扱えるものと、そうでないものがあったらしい。米に関する記述の中に「是は山方荷物に限り請取申すべし。宿内諸荷物は受け取るまじきこと」といった注記も見られる。なお「山方」とは産地を指す用語で、近代以降も千住の市場で用いられていた。
| 分類 | 産物名 | 備考 |
|---|---|---|
| 食品類 | 米(こめ)、赤穂塩(あこうじお)、才田塩(さいだじお)※1、醤油(しょうゆ)、素麺(そうめん)、黒砂糖 (くろざとう)、くご※2、柏葉(かしわば)、味噌(みそ)、前栽(せんざい)※3、棒下地(ぼうしたじ)※5、麦(むぎ)、蕎麦(そば)沢庵大根 | ※1 瀬戸内の斎田塩
※2クコノミ?未詳。 ※3野菜類。 ※4典拠では前栽等と一緒に記載されているが未詳。 |
| 肥料・土壌改良材等 | 鰯〆粕(いわししめかす)、干鰯、蛎灰石灰叺(かきばいせっかいばいかます)、油粕(あぶらかす) | |
| 製品類 | 筵(むしろ)、篩(ふるい)、曲輪(まげわ)、すご※1、今里瀬戸物(いまりせともの)※2、摺鉢(すりばち)、土瓶(どびん) | ※1藁や萱製の梱包材
※2今里は伊万里のこと |
| 燃料類 | 鍛冶屋炭(かじやずみ)、水油(みずあぶら)、真木(まき) | |
| 原料類 | 紙屑下り俵(かみくずくだりもの)、材木類(ざいもくるい)、板類(いたるい)、石類(いしるい) |
※出典=1833(天保4)年6月「議定書」(本文参照)
※産物名は出典のまま表記し読みを付した。
出荷や輸送に関する歴史用語
山方・やまかた 産地を意味する言葉。「山方荷物」などと用いられる。
奥川筋・おくかわすじ 舟運で用いられた言葉で、荒川をはじめ輸送にかかわる川筋や河岸場を表していた。例えば「奥川河岸」は輸送にかかわる河岸場を指す。