帝国農会の調査

112 ~ 114

この時期の千住の市場について判明する資料として、帝国農会が発行した『東京市域内生産蔬菜配給状況』東京市農業に関する調査(帝国農会、一九三五年・昭和十年)がある。取引形態や市場の規模について詳細に記しているので、同書から当時の千住の市場の概要について別掲の一覧を作成した。

帝国農会の調査に見る千住の市場(その1) 市場の概要
項目 内容
a所在地 足立区千住河原町24番地より56番地(街道西側)
             59番地より91番地(街道東側)
b敷地 6153坪
c建坪 2874坪
d交通 常磐線北千住駅、京成電車大橋駅、東武線
「交通は至って便利、貨物の集散上最も適した位置を占める」
e市場の構成
イ取扱品目 蔬菜、果実、漬物、川魚
「川魚を除く外は夫々専門取扱問屋がある訳でなく、一問屋に於て総てを取扱うのである。しかし各問屋に於て、その重心を異にして居ることは他市場の場合と同様である。」
ロ収容問屋 合計32戸
「これら各問屋はいずれも各自単独の損益計算で営業している。而してこの問屋店舗の土間は集荷場および売場とし、二階を荷主あるいは使用人の宿泊所に充て、住宅は売場の後方に設けられているのが普通である。」
ハ仲買人 合計72名
「各問屋の軒先を賃借して自己の計算に於いて一般買出人に細分販売している。而してこの場合大部分は加工せずして販売して居り、ただ、芋類の如きは洗って販売する者もある。」
ニ出仲買人

(投師)

「出仲買人は当市場より買入れ、東京市内の各市場に転送販売をなすものであるが、そのうち葱のみを取扱う出仲買人13名が居り、千住葱商組合を組織し東京青果出仲買組合連合会に加入している。千住葱商組合の取扱数量は東京全市に於ける葱消費全数量の4割3分に当たっている。
ホ買出人 2000人(1日平均)

「買出人は主に一里内外に居住する小売商である。」

へ営業時間 「午前4時より(開市)、正午まで(閉市)である。」

出典=『東京市域内生産蔬菜配給状況』東京市農業に関する調査(第3集)(帝国農会、1935年)より
※「 」内は原文からの引用。引用に当たっては一部常用漢字等にあらためた。

 本一覧を見ると、千住の市場の特性が如実に出ている。一日に二〇〇〇人からの買出人が訪れる市場で、時間は早朝からお昼までとなっている。特徴的な東京市内への移送は出仲買人(投師)が担っており、とりわけ千住葱については、東京での消費量の大部分がこの市場で取り扱われていたことが判る。さらに立地条件の面を見ると鉄道の項目で記されているとおり(項目d)、三つの路線が乗り入れていて、「至って便利」な場所だったことも記されている。

 また興味深いのは、この調査が建物の特性(項目e-ロ)などで見られるように、かなり詳細な部分まで言及していることである。

 ところで、前出している千住の市場の特性については、調査の概要部分で次のように言及している。

 …略…千住市場は埼玉方面並に近在物の入荷市場にして、特にこの市場の特色とするのは近郊特殊生産物中一旦市場にて取り引きされたものの一部分を、その市場内に居る仲買人を経てさらに神田市場に転送の形式をもって持ち込み再販売する如き取引の慣習を有することである。俗にこの種の商人を投師と称し、かかる特殊取引は東京市の特別の慣習と見得る。…略…

※ 「東京市内に於ける蔬菜果実卸売市場」第一節(前掲『東京市域内生産蔬菜配給状況』)


1935(昭和10)年の千住市場のようす
(『東京市域内生産蔬菜配給状況』帝国農会より)