千住河原町にいまはなき江戸時代からのヤッチャバで、まだそのままに続いている青果市場がある。それは葱を専門に扱う「草加山柏青果物市場」である。
午前六時、市場は山と積まれた葱の甘い香りにつつまれていた。ここに持ち込まれる葱は、戦前までは区内の梅田や島根の農家が栽培していたが、いまでは埼玉県吉川町や松伏町などの生産農家約百軒が栽培している。
葱には、独特の縄結びで約六kg束にされ、それぞれ名札がつけてある。この束ね方と生産者が丹精込めてつくったと言う自信を持って名札を付け、ここで取引されるのが千住葱のブランドなのである。
千住葱は、白根の長い根深ネギで、老舗蕎麦屋、料亭、焼鳥屋、おでんのネギマなどプロだけが使う葱で、一般の人の手には入らない。そのため一般には、馴染みが薄いが、知る人ぞ知る高級ブランド葱なのである。
六時過ぎ、葱商と言うこれまた葱専門の仲買人が集まって、威勢の良いかけ声で競りが始まる。
葱商は、現在一一軒あるが世襲または一〇年以上専門の葱屋で修行を積んだ者しかなれない。これら仲買人の眼鏡にかなったものだけが「千住葱」なのである。
千住の青果市場(ヤッチャバ)は、戦時中、千住橋戸町の都の中央卸売り市場に統合され、一九七九年には足立区入谷の流通センターに移ったが、ネギの市場だけは千住に残った。
午前七時、葱商たちは、競りが終わったネギを小型トラックに満載して、それぞれの顧客のもとへと走っていった。その光景は、ここに青果市場があった時代と荷車、大八車が自動車に変わった以外は、大きな変化は無く今に続いている。