あとがき

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 本書は『足立風土記稿 地区編』全一〇巻の最終巻となります。しかしシリーズの掉尾にありながら、千住地区は、これまでと若干趣が異なっています。それは他の九地区と比較して背景にある基本的な歴史の流れに特異性があったからです。

 この要因の第一は江戸時代から町が発展して、交通、流通の拠点となったこと、第二は明治時代から昭和戦前にかけて、いち早く東京の一部に取り込まれていったことです。一方で他地区との共通性もありました。たとえば景観が急変する契機となった都市計画事業や公園の整備、さらに工場の進出、見沼代用水をひいた稲作中心の農村だった歩み等がそうです。こうした特異性と共通性は、とまどいを覚えるほど入り組み、生み出された歴史と文化の幅広さは予想以上に大きいものでした。そして、その結果、先人たちが伝えた資料は、数の多さと、質の多様性で他地区に類を見ないほどだったのです。

 このため本事業は大きな壁に突き当たりました。一つは本書の頁数の限界という問題です。他地区と同様の基準で記事を採録すると、とても一冊では間に合わないのです。もう一つは、分野が幅広く本書の枠組では、不足分野が生じるという問題です。例えば、産業の歴史や文化史など、とても本書の枠組で事足りる内容ではありません。

 この壁を乗り越える方法として、本書は基本的な歴史過程を柱として記述をまとめるという方法を取りました(このことは網羅的に資料や語り伝えを採録しようとした他地区と比べると、その基本線が大きく異なっています)。この方法を選んだ理由は、ここでも先人や多くの個人・グループによる郷土史の蓄積にありました。足立史談会をはじめ様々なグループの研究、さらに本地区内外の人々による郷土史の書を開くことで多彩なエピソードを学べる環境にあったのです。

 一方で基本的な歴史経過については多くの課題点がありました。例えば、「千住宿を利用した大名は何件あり、何という大名なのか」といった基本的なデータすら明らかにされていませんでした。これは「松平定信が千住宿のことを書いている」といった個別情報の蓄積と対照的でした。つまりエピソードは多いが通史は難しいという状態だったのです。

 このことから、協議の結果、網羅的に記事を構成するという従来の方法をとって頁数を増やすより、千住地区の基本的な歴史経過に的を絞って記述したほうが郷土史学習にとって効果的である、との結論が得られました。この構成は、改めて振り返って見ますと問題提起を試みているものでした。幸い、当該地区を含め、本シリーズ編さんにあたって、ご教示を賜った区民の皆様により、本書が印刷されようとしているこの時も、郷土史の掘り起こしや遺産の継承への努力が続いています。本書の試みも、こうした皆様の手によって書き換えられ、新しい通史が構成され続けると予測できます。

 本地区をはじめ足立区の全地区には魅力溢れる歴史と生活文化があります。本シリーズの最終巻を送り出すにあたり、これからのまちづくりを考える際に、そして郷土史の学習や研究に際して、本シリーズをご活用いただきたいと念願いたします。

 最後に貴重な資料の提供や、ご支援ご教授をいただきました皆様に、改めて心からお礼を申し上げます。

足立区教育委員会文化課風土記編さん担当係(文責 大久保美智子)