読み下し

嶌崎勇詩書

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向寒日々相催し候えども、いよいよ御安逸在せられ
御坐恐寿奉り候。しからば毎度まかりいで種々
御世話に預り、千萬忝く存じ奉り候、さて拙宅差
し縺(もつれ)の一条始末、申し上げ御思し召し相窺
い奉り候處。何レも御懇情御咄し仰せ聞かされ
御尤もの御義すなわち、愚意に陥り千萬有りがたく
万謝奉り候。且、親共義も当七日
滞り無く、別宅仕り候處。跡宅殊の外
無人に相成り俗事にて、いまだ周旋仕り撃釼
の義も心に任せず、然ルといえども此まま浪漂
仕り相滅し候も本意成らず、古の奥平氏
長篠おいて一城相堪え候例(たとえ)もこれあり、
縦令(たとい)小子万死一生と申しながら一ト先、此
場相堪え及ばずながら再び流祖の魂志
相建てたく志願まかり在り候えども、況や獨り
身の力に及ばず候間、いづれとも恐れ入り候
義に御座候えども、梅沢氏を当分の内
拝借仕りたく、歎願奉り候。勿論(もちろん)御親類
内の事ゆへ御執り斗らいもいかがやには存じ奉り候。
併(しかし)ながら、御兄君の御骨折これあり候はば、
別条の事なく存じ奉り候。万端御差し含み
置かれ、宜しく御執り斗られ成し下されたく候。憚りながら、
橋本公(橋本道助)へも右の趣然るべきよう御執り成
し希(ねが)い奉り候。もし亦小子の天運相叶(かな)
い当流日々相輝き候はば来世に至るとも
此御恩、いささか忘却仕り間敷。末筆ながら
皆々様へ宜しく御伝声仰せ通され候。
何れ其後推参し万端申述ぶべく候。先は
腐筆につくしがたし。早々不具
 
十月十二日
                嶌崎 勇
                    拝
 
児 鹿之輔様