読み下し

土方歳三書簡

原本画像を見る

目録を見る 目録を見る

春暖之節御坐候処、
愈御安康御座成させらるべく候、
と恐寿奉り候、随て当方
一統無事御休意下さるべく候、
一 局旅宿之義、追々
多人数相成り候て何分
人数詰兼候、これにより、来る
十日頃には西本願寺
講堂と申す所え旅宿
替り相成候間、若(もし)御用
簡(件)も御坐候はば右の所
え向け書状御差出下さるべく候、
一 然とも相分らず候得共
大和十津川と申す所え
浮浪の者共相集り候様
伝聞仕り候、其外摂州
妙けん山えも相集り候様
伝聞致し候、此の如く形勢
にては又、遠からず一戦もこれ有るべく
と存じ奉り候、然しながら右様
形勢差詰り候に未だ、
関東においては御老中様
初メ大小名にも御心中え
入らざる事と存じ奉り候、
小子共おいても誠に残念存じ奉り候、
然しながら何の思し召しこれ有る哉、
御地御風評承知仕り度、
一 此度又も御老中様内
豊州へは御東下相成
御上洛在らせられず候ては、実に
恐れ入り奉り候儀には御座候得共、
関東の御思し召し之儀も
一口も相立てざる事と、
恐察奉り候、殊に小子共も関東
おゐて尽忠報国の者と
御つのりに相成候はば、尽忠
も重し、報国も重し何は
何と分別も致しがたく候、何
卒 徳川家の御衰
ウン今壱度此所に於いて
引き返し尽忠報国
の四字も衛(まもり)忠勤致し度候、
一 常野ノ大将武田初メ
半分程井伊并に若州ノ
手に首打たれ候様相成候、誠に
右様の者共位は関東
にても如何存じ奉らず候得共、
洛近おいて小子の如く相心得
候、先は申し上げ度此の如く
御座候
        恐々不備
  三月朔日
        𡈽方歳三
          花押
 佐藤兄
  
 尚々御全家統中え
 よろしく、二に石田為兄幷に
 五右衛門老人えもよろしく
 願上げ奉り候、
 一 小嶋えは別段形勢
 記さず候間、貴兄より
 よろしく御伝え下さるべく候、