解説

 『礼儀類典』は、全五一五巻に及び、徳川光圀編纂による総合部類記である。恒例・臨時の朝儀・公事全般を網羅し、古代・中世の記録の関係記事を分類・集成したもので、元禄一四年(一七〇一)にかんせい、宝永七年(一七一〇)には清書本が朝廷に献上された。
 この度、稽古有文館蔵本のうちに『礼儀類典』が発見されたのであるが、これが完本(五一五巻五一四冊・首巻と目録を合わせて一冊)であったことは重要と言わねばならない。というのは、『礼儀類典』写本のうち完本で現存するものは十部弱ほどしか確認されていないからである。また、長らく影印でも活字でも公刊されず、一九九一年にようやくマイクロフィルム版で雄松堂から公刊されたという経緯を有するため、一般に触れられる機会は全くなかったと言ってよい。時野谷滋(1)、橋本義彦(2)、所功(3)らによって、その研究が進められてきたにもかかわらず、その内容になお不明な点が多いのは、以上のような理由によるであろう。
 稽古有文館蔵本については、初次本と再訂本のうち、初次本であることが、凡例、目録の本文異同から確認できるが、書写者、書写年代については、ともに不明である。
 さて、今回、稽古有文館蔵本五一四冊のうち、図絵三巻三冊を白黒印刷にて公表することにした。以下、図絵について述べるが、それが大きく二系統の本に分類されることがわかった。ここでは、仮にA系統、B系統と名付けることにする。A系統としては、マイクロフィルム版図絵に採られた内閣文庫蔵本(紅葉山文庫旧蔵)、ほか、宮内庁書陵部蔵本(献上本)、内閣文庫蔵本(昌平坂学問所旧蔵)、東京大学資料編纂所蔵本、国会図書館蔵本(白河文庫旧蔵)が相当する。B系統としては、今回公表する稽古有文館蔵本、ほか、内閣文庫蔵本(姫路藩好古堂旧蔵)、内閣文庫蔵本(旧蔵者不明)、内閣文庫蔵本(内務省旧蔵)、以下図絵のみ現存になるが、東京国立博物館蔵本、宮内庁書陵部蔵本(大橋蔵書印本)、国会図書館蔵本(合冊本/巻三欠)が相当する。また、B系統に類似するが、構成の異同のあるものに、国会図書館蔵本(致道館旧蔵)、図絵のみが現存になるが京都大学附属図書館蔵本がある。両系統の内容・構成については、B系統の方が、A系統に比べ少部であり、かつ省略も多いということが言える。というのは、A系統における巻一、巻三の一部ならびに巻二の全部が、B系統の方では欠落しているからなのであるが、そのために、A系統巻一にあたるっ分をB系統では二巻に分け、それぞれを、巻一、巻二として構成している。これらの事情から、A系統からB系統が派生したと考えてよく、つまりは、A系統が古体を呈し、かつ豪華本であるのに対し、B系統は流布本・簡易本という性格であったらしい。A系統は、既に公刊されており、ここに、B系統の図絵である稽古有文館蔵本を新たに提供することによって、文学、歴史学、民俗学等の発展にいくばくかの寄与をしていきたいと思う。
 
(1)「礼儀類典」『律令封禄史の研究』吉川弘文館参照
(2)「部類記について」『平安貴族社会の研究』吉川弘文館参照
(3)「『礼儀類典』解説書」『礼儀類典』雄松堂フィルム出版参照
 
 
巻一
 
一、大きさ 縦二六・七(cm) 横一九・四(cm)
二、題簽 直書 禮儀類典圖繪 巻一
三、墨付 一二丁 青表紙
 
巻二
 
一、大きさ 縦二六・九(cm) 横一九・六(cm)
二、題簽 直書 禮儀類典圖繪 巻二
三、墨付 一二丁 青表紙
 
 
巻三
 
一、大きさ 縦二六・八(cm) 横一九・七(cm)
二、題簽 直書 禮儀類典圖繪 巻三
三、墨付 一六丁 青表紙