[出雲文化活用プロジェクトについて]

出雲大社のほど近く、神迎の道に面して居を構える手錢家は、江戸時代前期に大社へ移り住み、酒造業の傍ら御用商などさまざまな商売を営むとともに、江戸時代中期から明治維新までの間、長く大年寄、御用宿などを仰せ付かってきた。
 このような事情もあり手錢家には、公務、村の様子や天変地異、商売の記録、子供の誕生や冠婚葬祭などさまざまな出来事を、宝暦年間から明治初期までの当主が書き残した『萬日記』や、延享三年から明治初期までの公文書等を写した『御用留』をはじめ、未整理の資料も含めて膨大な文書類が残されている。
 手錢記念館では、これまで何度か、これらの資料を手がかりに江戸時代の大社の様子を考える企画展を開催してきた。
 また、島根大学法文学部山陰研究センターと手錢記念館は、平成十七年から手錢家の蔵書に関する調査を継続して行っており、近世資料に関して言えば、これまでに約六五〇点、一〇〇〇冊あまりの蔵書と約一〇〇〇枚の文芸関係資料(短冊、一枚摺等)を確認し、順次、島根大学附属図書館のアーカイブ上で公開してきている。
 このような展示と調査の過程で、手錢家に残されている大量の文書が、江戸中期から後期にかけての大社町に関する様々な側面を詳しく記録し伝える貴重な資料群であることが改めて分かってきた。
 そこで、調査研究と資料の活用をより一層進めるために、島根大学法文学部山陰研究センター、島根大学附属図書館、手錢記念館が連携して『出雲文化活用プロジェクト』を発足させた。
 「平成二十六年度文化庁地域と共働した美術館・歴史博物館創造活動支援事業」の助成を受けたこのプロジェクトは、江戸時代の歴史的、社会的、文化的な研究において大きな意味を持つと考えられる手錢家資料を整理研究・翻刻・公開することによって、江戸時代の大社における生活文化や文芸活動などの様相を広く地域市民と共有し、また、大社町の町おこしや振興への新たな材料や付加価値を提供することを目的としている。
今年度は、資料の調査研究を容易にすることと『萬日記』の全翻刻に取りかかる為に、蔵書及び文書のデジタルデータ化を進めることとし、撮影したデータを活用して『萬日記』翻刻の下読み作業を開始した。
また、蔵書調査によって少しずつ分かってきた、江戸期の出雲地方の文芸活動を紹介する「特別企画展 江戸力 ―手錢家蔵書から見る出雲の文芸―」を開催した。
 この企画展では、江戸時代、当地でも様々なジャンルの文芸活動が大変盛んであったこと、それらは、出雲大社の存在もあるためか他地域とは少し異なった独自性を持っていたこと、手錢家所蔵資料がこれらを具体的に示す貴重な資料であることを、展示だけでなく公開講座・シンポジウム・ワークショップ等を通じて広く知ってもらうことを目的とした。
 
 
 
出雲文化活用プロジェクト実行委員会
公益財団法人 手錢記念館
島根大学法文学部山陰研究センター
島根大学附属図書館