[三 散文関係の書目]

 最後に散文関係の書目について触れる。蔵書の中に、大本で浅葱色の表紙をもつ、特別にしつらえたと見られる一連の実録写本がある(図版22)。先に掲げた六代有芳作成の蔵書目録では、これらは「軍書」という括りで登録されている。和歌・俳諧を中心とする文芸の営みの一方で、実録の享受が行われていたことは注目すべきである。

図版22 実録写本

 また『雲陽観音馬場一代実記』という大社の地で作られたに違いない写本がある(図版23)。構成、文体いずれを取っても決して上々の出来とは言えないが、書名からして、明らかに実録という意識で作られている。これは手錢家以外の人の手によって作られたものと推測するが、実録の地方の読書人への浸透が窺い知れる事例と言える。

図版23 『雲陽観音馬場一代実記』