手錢家には、「萬日記」「婚礼一途」のように直接婚礼の様子を物語る資料以外に、歴代の婚礼に際して贈られた祝儀の和歌や発句といった文芸関係資料も残っている。
そのおおくは、普段から連句や歌会などを共に楽しんでいた商家、豪農、松江藩士、出雲大社の社家の人々からのもので、江戸時代この地で文芸活動が日常的に楽しまれ、暮らしを彩るアイテムとしても大きな役割を果たしていたことを物語る、具体的な証しとなっている。
また、八代安秀の婚礼に際しては、千家国造家による和歌の寄書と大社上官による和歌の寄書を対幅に仕立てた祝儀幅が残されている。この対幅は、千家国造家や上官と手錢家がいかに親密で、信頼関係が深かったかを示していると考えてよいだろう。