おわりに

 「萬日記」の内容は多岐にわたっている。
 今回は約百年の間に行われた五回の婚礼について、その中でも式と宴の記述を中心に抜き出したが、この一点に絞っても、詳細に見ていくことで江戸時代後期の社会生活や文化の変遷をすくい上げることが出来るだろうし、今はすっかり失われてしまった様々な慣習の本来の形を見つけることもできそうだ。
翻刻ができなかったこともあって今回の企画展では触れられなかったが、縁談の始まりから婚礼が終わった後の儀礼まで、細かなやりとりや覚え書きなど様々な文書が残っており、これらを読み解けばさらに、江戸の人々が大切にしていた形と気持ちが見えてくるに違いない。
 形は残っていても、それに込められた気持ちがどのようなものだったのか、途切れてしまってわからなくなっていることはおおい。
 江戸を知ることで、今はもっと豊かになる。「萬日記」はそんな豊かさのつまった資料でもあるのだ。
 
               公益財団法人手錢記念館 学芸員 佐々木杏里