はじめに

PDFで読む 目録


 出雲国大社の手錢家は、貞享年間に、大社に移り住んだ喜右衛門長光(寛文二年~寛延二年)を祖とする商家で、町役の大年寄を長く勤めた。歴代の当主は文芸にも関心が深く、和歌・漢詩・俳諧に熱心であった。
 とくに、三代目当主である手錢白三郎(正徳二年~寛政三年)は、俳号を季硯、また白澤園と称し、同じく冠李(1)、また徳園人と称した弟の兵吉郎(享保四年~寛政八年)と共に俳諧活動に力を注いだ。手錢記念館にはその俳諧資料が伝存する。本稿では、その俳諧資料の中から、季硯の句集である『松葉日記』(稿本)を翻刻紹介する。
 
一 書誌
 
  書型……写本一冊。半紙本(やや縦長)。
  表紙……濃縹色料紙。縦、二四.〇cm×横、一五.八cm。
  題簽……左肩無辺緑色料紙。「松葉日記」と墨書。
  序跋……なし。
  本文……料紙は薄様。毎半葉六行内外。各句は一行で記され、端書きは句に対して、概ね二字程度を下げて記される。
  字高……一六.三cm(一丁表「元日や…」を計測)。
  丁数……四〇丁(墨付き三六丁)。
  その他…全体として調った筆遣いで記されているが、三一丁表四行目からは、ややその筆致に乱れが感じられる箇所がある。裏表紙見返し左下隅に、「〓硯」と墨書。