四 『蕉門名録集』所収の季硯発句

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 さて、『松葉日記』所収句との比較のため、『蕉門名録集』に収録された季硯の発句を以下に掲出しておきたい。なお、『蕉門名録集』には、「出雲州 大社連中」として季硯・李夕・五溪・冠李・素川・飄尾・文裏・呂植・雲坡・魯川の発句が収録されている。
 
  しら梅やいづれの枝を銀河          季硯
  ゆづり状書て老たる柳かな          季硯
                   (『蕉門名録集』春之部)
  魂ならば小町なるらん杜若          季硯
    海辺納涼
  枕より跡より凉し海の音           季硯
    百年のことし出雲大社新に造営ありけるに、予、大病快然を得て詣奉る折からに
  新なる千木も命のしげみかな         仝
    比は水無月の末也けり。及なき身も、行がゝりの旅寝に、此勝景の言種も猶恐れ思ひながら、八景名尚季をもて拙きながめとはなし侍りぬ。
    近江八景 各夏季
    石山秋月
  明安し石ずり山の秋の月
    三井晩鐘
  大和路は三井より告て秋ちかし
    辛崎夜雨
  から崎や夕だちとても常の雨
    堅田落鳫
  堅田いま鳫の留主居や杜鵑
    比良暮雪
  雪ぞとも比良にゆふべの雲の峰
    粟津晴嵐
  粟津よりうみにひたすや青嵐
    矢走帰帆
  帆に蝶のかへりも凉し琵琶のうへ
    勢多夕照
  長橋やなかば夕照る夕すゞみ
    右於石山寺麓
      雲州大社 錢季硯拝書
                   (『蕉門名録集』夏之部)
    聖廟法楽
  神垣のひだりは青し梅紅葉          季硯
 
  何の葉の雫に染て鮎の渋           季硯
  秋来ぬと木ずゑは鵙のにへあがり       季硯
  あさがほや棚に餌を呼ぶ鳥の声        季硯
  鳴鹿や頭にたく香も消て行          季硯
                   (『蕉門名録集』秋之部)
  山河の出て来る世話やいく時雨        季硯
    山家庭上の清流に
  遊仙の沓もなかすや落葉川          季硯
                   (『蕉門名録集』冬之部)