11.地蔵

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 知らない街を歩いていて“お地蔵さん”に出合うと“ホッとした”気持ちになられた方は多いのではないでしょうか。村のはずれや峠のてっぺんにあるお地蔵さん。町の曲り角、四つ角や辻にあるお地蔵さん。墓地の入り口に並んでいる「六地蔵」と、私たちの暮しを見守ってくれているようにあちらこちらで見かけます。何となく“地蔵”に“お”と“さん”をつけ“お地蔵さん”と親しみと優しさを込めて呼ぶ地蔵の信仰は、奈良時代に唐から伝えられました。
地蔵イメージ

地蔵map

 お地蔵さんの信仰は平安時代になると、全ての衆生(しゅじょう)を救うという考えにより、人々の間に広がり始めました。さらに、地蔵和讃(じぞうわさん)によってその功徳(くどく)がわかりやすく知られることになり、賽(さい)の河原で幼な子を鬼から救うということから、子どもの守り仏とされて、京を中心に近畿一円に広がりました。賽の河原があの世とこの世の境であることから、塞の神、道祖神信仰とも影響し合い、辻、角、峠等で祀られていきました。道標に地蔵さんが使われているのを良く見かけるのは、この信仰と旅の安全を願う庶民の願いからでしょう。

■林崎の墓地の六地蔵

 8月23日、24日は近畿一円でお地蔵様が祀られ、新調された赤い前掛けなどでお化粧をされたりします。地域の婦人が地蔵の周りに場所を設けて、数珠(じゅず)繰りをしたり、念仏を唱え、お参りに来た子どもたちをお菓子などで接待をします。地蔵のない新興団地では、お寺などからその日だけ地蔵を借りてきて地蔵盆を行う所もあり、無くなりつつある民俗行事の中ではまだ盛んに行われています(ただ、少子化と、接待する側の高齢化から一日だけの所も増えてきています)。

■朝霧2丁目の地蔵巡り

 また、盆踊りをこの日にするところも多いようです。しかし、この地蔵盆も近畿地方特有の年中行事で、他の地域ではあまり見られません。

■明舞団地・仲よし公園の盆踊り

 地蔵にまつわる言い伝えには、身代わりの話が多くあります。これは、慈悲深い地蔵が、六道輪廻(りんね)で苦しみ、仏と無縁の衆生でも救う菩薩とされ、庶民から厚く信奉されたことから、いたるところに地蔵尊が祀られてきました。また、昔話の『笠地蔵』の話のように、古くから日本に伝えられてきた、外から村を訪れて、幸せをもたらすという来訪神・客人(まろうど)神との信仰も重なって、地蔵の話は語り伝えられてきました。
 明石市貴崎4丁目の「身代わり地蔵」は太平洋戦争末期の昭和20年(1945)の空襲で亡くなった学徒動員の子どもなどの霊魂を慰めるために地域の人が建て、その後、多くの事故の被害者の霊を慰めるために、両脇に小さなお地蔵様を祀っています。地蔵信仰が今も生き続けていることを教えてくれるとともに、戦争の悲惨さも伝えてくれています。

■身代わり地蔵

 また、田町2丁目の「縁切り地蔵」は、いつ頃から祀られたかは不明ですが、遊女が傍の木に鼻緒を切った草履(ぞうり)を吊るして願をかけたという話があります。『林崎村郷土誌』(大正8年、1919)には「瘧(オコリ)病に効き、地蔵の顔に泥を塗って願をかけた(中略)現今、縁切り地蔵として、霊験(れいげん)があれば、草履の鼻緒を切りて供える」とあります。

■縁切り地蔵

 この他、昔々、お地蔵さんのそばには金気(かなけ)の水を抜く掘り抜き井戸があって、“掘り抜き地蔵”と呼ばれたとも伝えられています。
 大久保町の光触寺(こうそくじ)【マップ中・大4】の山門の右手に「左巻き地蔵」が祀ってあります。以前は近くの横山の山頂にありましたが、団地の造成に伴って転々として今の地に落ち着きました。近くのため池に住む大蛇に襲われた村人の身代わりになって、地蔵さんは大蛇に巻きつかれて池に沈みました。助かった村人は命の恩人の地蔵さんを救おうと、池さらえをして、引き揚げると、地蔵さんの体には巻きついた大蛇の跡が残っていて、その後、祠を建てて安置し、大切に祀り続けたそうです。これも、地蔵の身代わりの話です。船上町の密蔵院【マップ中・西10】境内の東南の隅には変わった願掛けをするお地蔵さんがあります。「油掛地蔵」と呼ばれている通りに願を掛ける時、お地蔵さんの頭から油を掛けながら一心にお願いをします。開運、健康、安産を祈るのだそうです。

■左巻き地蔵


■油掛地蔵

 “お地蔵さん”は市内の各地に祀られていて、人々の暮らしに安らぎを与えてくれています。地域外の人間にはどこにあるのかわからない、ひっそりと祀られていることも多いのですが、地蔵盆の日になるとその周りは子どもたちで溢(あふ)れ、提灯(ちょうちん)が吊られた夕方の薄明かりの中に、温もりを感じさせてくれます。そして、“お地蔵さん”の居る場所は、地域と地域の小さな境・境界でもあることが多いようです。
 明石近辺では、神戸市垂水区舞子の国道2号線沿いにある「たたき地蔵」、神戸市西区平野町慶明の「縛(しば)り地蔵」なども、身代わり地蔵の代表的な話として伝えられています。

■延命地蔵・たたき地蔵


■縛り地蔵