大蔵谷の本陣、脇本陣に宿泊した人たちの食事事情がわかる貴重な記録がある。本陣制の下では、いわゆる特権階級の人の献立である。明治3年の本陣制廃止後では演習に向かう兵隊の献立である。ただし、兵隊といっても軍曹や伍長で中間階級の人たちであり、町屋などに分宿した大多数の兵隊たちとは異なる。(※資料の記述を元に、素材名を現代表記に改めた。料理に関しては三浦弘氏に監修していただいた。)
1 出雲大社国造家
古くより出雲大社の祭祀を担う国造家北島氏と千家氏が上京の時に大蔵谷に宿泊した。国造家の宿泊については特に食事の決まりがあったようで、“一汁三菜也、外ニ御酒差出、御肴は組肴作身焼魚何れも銘々皿ニ而差出、上分丈御菓子差出ス事”という注意書きがあり、当日の献立が記録されている。
①明治2年2月15日
出雲大社 国造家北島氏 上京御泊(石井夘右衛門宅)
・夕 平(魚すずき・生ふ・しいたけ・竹ノ子・三ツ葉) 猪口(いか青あえ) 汁(ふ巻・青み) 焼物(黒目ばる) 香之物(大根漬)
・酒肴(こんぶつくね) 皿(わかめ・しいたけ・うど紅染) 皿(作身) 皿(油目焼物)
・朝 平(ゆば・くわい・かまぼこ) 汁(ちくわ・青み) 焼物(油目) 猪口(小栗)
②明治2年2月16日
出雲大社 国造家千家氏 上京御泊(石井夘右衛門宅)
・夕 皿(黒目ばる) 汁(ふ・青み) 平(魚いな・しいたけ・竹ノ子・とうふ・三ツ葉) 猪口(小栗)
・肴 皿(たい・あなご・うど・しいたけ・こんぶ) 皿(作身) 皿(たこ関東焚)
・朝 皿(ぶり切身) 汁(かまぼこ) 平(くわい・てんぷら[すり身]・ゆば) 猪口(あなごせん切)
③明治2年3月21日
出雲大社 国造家千家氏 京都より帰国御泊(石井夘右衛門宅)
・肴 皿(さし身) 皿(あじ塩やき) 皿(うど・たこ・いか・結びこんぶ・高野煮付・切干大根)
・夕 平(竹ノ子・生ふ・しいたけ・実切身・三ツ葉) 皿(黒目ばる) 猪口(いか青あえ) 汁(ちくわ・青み)
・朝 平(くわい・ゆば・かまぼこ) 猪口(たこ) 皿(あじ切身) 汁(米粉団子)
2 兵隊
明治3年の本陣制度廃止後も旅籠屋として宿泊者を泊めているが、明治7年12月以降は軍隊の演習にともなう宿泊が多くなった。住野家に泊ったのは軍曹や伍長たちであり、その時の献立が記録されている。
①明治7年12月16日
大坂鎮台 第貮大隊陸軍軍曹 神出広野へ陣立稽古
・夕 平(小いも・竹輪・湯葉) 猪口(大豆・こんぶ・こんにゃく) 皿(はまち切身) 香之物 飯
・朝 平(竹わ・いも・牛房・人参・生ふ) 薄くずのっぺい
②明治7年12月22日
大坂鎮台 第貮大隊三番中隊 軍曹 三木町(演習地)より帰坂
・夕 平(ふ・くわい・かまぼこ・牛房・水な・さしみ) 猪口(こんにゃく) 皿(ぶり切身) 香之物 飯
・朝 平(玉子・こんぶ・いも・水な・ゆば) 猪口(水菜・ごま) 香之物 飯