うおじま季節 大阪市場入港

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 上り航は、富島港午後6時頃出港、午後11時頃大阪港外南寄り到着。エンジンクラッチを切り、漂泊して、まず活鯛のシメ作業から始める。全閉栓して活間内の海水をポンプアップで排水する。腰の位置まで排水してポンプを停止する。鯛の習性で一定方向に活間内を旋回して泳いでいる。そこで、「浮かせジメ」の方式でシメる。片活間の船尾よりに立ち、こちらに向かって泳いでくる鯛のエラ下に左手をさしのべ、口元をつかみ、手元に引き寄せながら鯛の魚体を水平になるように手元に寄せ、鯛の目を水面に出した瞬間に目の上の急所に専用のシメ鈎を打ち込む。鯛は、口を一杯開いて即死状態となる。続けてシメ鈎の柄元を上に大きくはね上げて打ち込んだ急所のとどめをさす。シメ鈎を打ち込んだ傷穴は大きな四角形である。そこからは血と白い脳髄がふき出でる(当時は、尾ヒレ部の血抜き用の背骨切りはしていなかった)。この「浮かせシメ方式」は昭和32年頃、活魚船を安治川魚市場へ入港しておった頃まで続けられた。
 シメた鯛はデッキ下の「ハネ張り」内に投げ入れる。半数以上、シメ作業が進むと更にポンプ排水し、残っている鯛を全部シメて完了する。次に「ハネ張り」横の「水バネ板」をはずして「ハネ張り」内のシメた鯛を順次、船底におろす。その海水溜りに砕氷と角氷を入れて、冷却する。鯛の赤の発色が一層鮮やかとなる。4月、5月の夜半は水も冷く、風も冷い。ウェットスーツのなかった時代である。適当なうねりがあるので船体が動揺しているので、酸欠の心配はない。二活間ほどの鯛のシメ作業が終ると次にハモの活間の閉栓をして、大阪港内に入港していく。ハモの活間はポンプ排水(約半分)、ハモシメ作業を開始する。
 

明石型生船生の間断面図

 天保山付近に並行すると汽水域となる。そこで蛸の活間の全閉栓をする。そこから全速でハモをシメながら、大阪魚市場岸壁に到着する。時間は午前1時~午前2時頃である。天保山付近で、活鯛の冷却温度を手を入れて検分し、温度が上昇しておれば、更に氷を入れる。接岸後は、まず蛸を荷揚げする。次に、ハモを荷揚げする、最後は活けダイを通い箱(鯛30匹くらい入る)に入れて荷揚げする。売り場では、魚種ごとに選別、検量。箱入れの作業が行われる。入港船は、約20隻位であった。売場はそのさばきに、大混雑となる。市場の休日は昭和20年代、神戸6の日。京都7の日。大阪8の日であった。
 かねか商店は、8の日でも中型船で上り航船が来るので、神戸、京都で販売した。筆者は、昭和25年、26年販売責任者として2年間毎日、活魚を販売し、帰路は省線電車と明石から岩屋港まで連絡船に乗り、定期バスと乗り継いで富島へ帰った。昼食をとり、その日の売り上げ記帳をして、午後2時就寝。午後5時上り航船が入港して来る。夕食を自宅で取ることは無く、上り航船に乗船して夕食をとった。当時、筆者は18、19歳であった。船主であっても、船員は全員自分より年長者ばかりである。毎晩、活間にもぐってシメ作業を最終まで遂行した。休日は、時化でもなかったら1ヶ月に1日位であった。
 うおじま季節が終了する6月中旬以降、下りダイとなる。(麦わらダイ)と呼ぶ。この下りダイを専業に釣る漁民がいる、松山市高浜町上の谷漁港の漁民である。津和地島の北端小島の東岸近くで、北の方に錨を3箇程投入し、釣り小舟約10隻ほど連って縦一列に繋留する。満潮から潮が引き潮となる(南流)がはじまったら、船べりに荒目の砂を沢山積んである。同活間には底に砂を敷いて、小エビエサを活かしてある。まず砂をまき、直ちに小エビを10匹ほど投げ入れる。すると小エビは沈下する砂に従って海底へ降りて行く。そこへつり針に小エビをつけたつり糸を、その位置に投げ入れる。産卵を終えて、鯛は採餌旺盛であるので沢山釣れる。これは、南流が初まってから約2時間、急流になる直前までしか釣れない。身はやせてはいるけれども沢山釣れる。これを「撒(ま)き釣り」という。
 二神島の商主(しようぬし)矢野氏(戦前からの浜問屋)の小型運搬船で、筆者が船長、矢野氏が機関長の2名乗りで行って、北小島の潮のゆるい場所で投錨して待っている。漁が終わると、上の谷漁舟が集まって接舷し、値交渉して、矢野氏が検量する。筆者は勘定方を受け持ち、伝票に検量数、単価、金額を記入し小銭袋からパット現金を渡す。双方共に、永年の顔なじみばかりである。
 下り鯛の釣期も短い。又、近くの別の漁場に移り、「ヤズ」(天然ハマチ1.5kg位)の「撒き釣り」を始める。餌は「活きイカナゴ」を使用する。この「ハマチ」は大阪市場で人気が有り、高値販売できたので毎日買集め、粗漁で積込みできるから、上り航、夜半に積み出港させた。沖買いの貴重な体験もした。
 鯛の1本釣り(小型魚多い)と鯛延べなわ漁が始まる。津和地島や広島県豊島、香川県坂出市瀬居島から出漁して来る。餌は「ユウ虫」親指位の大きさで、淡路島では「コウジ」と呼ぶ。この「ユウ虫」餌の延べなわ鯛が最も良形で、空気抜きも上手で、魚体も強い。大阪活着8割にもなる。
 7月に入ると、大阪の夏祭りが市内各地で始まる。「洗い料理」用の魚種、大、中型鯛、スズキ、平目、カレイの需要が増える。先述の「ユウ虫」の餌による鯛延べ縄漁も、7月下旬釣れなくなって、漁期は終了する。次に山口県熊毛郡室津漁協と契約し、鯛延べ縄漁で良型の鯛が、9月末まで漁獲された。7月、8月の大中型鯛は、大阪市場では需要が多いが漁獲が少ないので、供給が追いつかない程である。