城内の行事・城下の祭り

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 城下町の賑わいは正月10日のエベッサンに始まる。岩屋神社と稲爪濱恵比須神社は福を引き当てようとする参拝客でごった返す。15日は新浜のサギチョウ(トンド焼き)がある。トンドが明きの方角(恵方)へ倒れると豊漁になるといって、漁師たちは無理にでも明きの方へ倒そうとする。人丸山の桜も満開の4月18日(旧暦3月18日は人丸の忌日)は柿本神社の例祭が、21日には徳川家康・松平直良・直明等を祀る明石神社の例祭もある。7・8月は夏祭りの季節。愛染さんの祭りはこの日から浴衣を着るので「浴衣祭り」ともいった。古くは稲妻大明神と称した稲爪神社の夏祭りには、稲妻がきらめき雷鳴がとどろいて、神様への何よりのご馳走といわれた。「さなぎさん」と親しまれた伊弉冊神社の祭りは、城主からの奉納煙火もあり夏の夜の楽しい風物であった。旧暦6月15日の岩屋神社の祭りは、浜の若者が海に飛び込み「おしゃたか」と叫びながら「神舟」を投げて泳いでいく。稲爪神社の秋祭りには「囃口(はやくち)流し」や「獅子舞」が氏子の家々を回り、神社では「牛乗り」神事が行われる。四季おりおりに城下の人々が祈り楽しむ祭りに、城主も神社へ出向いて湯立て神事を行い、花火を奉納する。人々の浮かれる宵宮はお城の武士も見回りに忙しく、祭りは城内と城下を結ぶ、またとない機会でもあった。
城内の行事 城下の祭り
1月 元旦 惣登城
2日 長寿院参詣
3日 御謡初 10日 十日戎
11日 御具足鏡開・御弓始 (岩屋神社・稲爪浜恵比須神社)
15日 御乗初 15日 左義長(新浜)
2月 朔日 月並御礼
初午 城内稲荷へ御備え
2月16日より9月晦日まで御供股引遠慮
3月 3日 上巳御礼 25日 雛形祭(休天神社)
4月 朔日 月並御礼2日 花祭り(明石仏教会)
4月1日より9月8日までは、殿中足袋遠慮8日 灌仏会(各寺院)
10日 春祭り(伊弉冊神社)
18日 例祭(柿本神社)
21日 例祭(明石神社)
5月 朔日 月並御礼
4日 宵節句
5日 端午御礼 惣出仕
6月 朔日 月並御礼 30日 愛染さんの祭り(材木町)
土用御機嫌伺
宵宮見廻(8日稲爪、14日岩屋、24日天神)
御堀藻取始
7月 朔日 月並御礼 6,7日 弁天さんの祭り(魚棚)
宵宮見廻六月之通 8,9日 夏祭り(稲爪神社)
7日 七夕御礼端午之通 巳日 弁天祭り(浜光明寺)
盆中見廻 旧暦6月15日 おしゃたか祭(岩屋)
23,24日 夏祭り(伊弉冊神社)
24,25日 夏祭り(休天神社)
8月 朔日 八朔御礼七夕之通
9月 朔日 月並御礼
9日 重陽御礼八朔之通
宵宮見廻六月之通(稲爪・岩屋)
重陽より殿中足袋許可
13日 岩屋大明神祭礼
10月 朔日 月並御礼 8-10日 例祭・牛乗り(稲爪神社)
10月朔日より2月15日迄股引許可 9,10日 秋祭り(伊弉冊神社)
13日 秋祭り(岩屋神社)
11月 朔日 月並御礼
12月 朔日 月並御礼
13日 御煤払
寒中御機嫌伺
節分 御年越豆蒔
28日 御歳暮惣登城
大晦日

(注)城内の行事は、桜谷忍編『明石郷土史料』を、城下の祭りは『式内社調査報告第22巻』、黒田義隆著『郷土明石風土記』等を参考にした。城内の行事の日程は旧暦であるが、城下の祭りは新暦、旧暦が混在している。
十日えびす(稲爪濱恵比須神社)
十日えびす(稲爪濱恵比須神社)
おしゃたか舟(岩屋神社)
おしゃたか舟(岩屋神社)
林の布団太鼓
林の布団太鼓


左義長(明石浦)

 家々でも暦に従いさまざまな行事が粛々と続けられていた。幕末に家老を務めた黒田家には二点の年中行事記録が残されており『明石藩の世界Ⅱ―藩士の日常―』(明石市制95周年記念企画展図録)に紹介されている。一点は天保8年(1837)江戸定府中の黒田長棟が記したもので、もう一点は長棟の次の当主長保が記したと推測される明治2年(1869)の明石における記録である。残念なことに天保のものは9月半ば、明治のものも6月半ばで筆が止まり、年の後半の記録がない。しかし、廃藩置県前の武家の生活を知ることのできる貴重な史料である。また、江戸時代末期に鍛冶屋町で醤油屋を営んでいた大村家にも明治19年(1886)の年中行事記録が残されていた(明石市立文化博物館に寄贈、収蔵されている)。大村家の文書(以下「大村家文書」と記す)は、正月に神棚へ供える餅の大きさや各寺院等への盆前や歳暮の付届けの金額などが細々と記録され、また後で、その金額などを見直した跡も見られる。商家にとってそういった配慮がいかに重要であるかを物語る史料である。一般的に家ごとの年中行事はわざわざ記録されることは少なく、毎年繰り返すことによって親から子、子から孫へと伝えられている。1993年と94年に、旧藩士家である織田家・大山家(別項参照)と商家大村家において第二次大戦頃まで行われていた年中行事の聞き取り調査を行った。黒田家及び大村家の文書と聞き取り調査の中から、年中行事のうち特に大切にされている正月と盆の行事を取りあげて、各家でどのように行われていたかを見てみよう。