1 富島発動機船産業組合の設立

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 1928年に富島の業者はこれまでの自由競争的な買付活動を制限して富島発動機船産業組合を設立した。その目的は、大阪雑魚場市場への出荷物に対する歩戻しが理由とされている。すなわち、富島業者が一元的に出荷することによって増大する出荷額に対して大阪の魚問屋より高率の歩戻が期待できるためであった。これによって富島町全体で多くの業者が組合に加盟したと見られる。加入業者のメンバーが確認できる「富島発動機船産業組合一覧 昭和七年弐月」によると、加盟業者50人、運搬船85艘(うち油船1艘)であった。業者の持ち船状況は7艘持ち1人、6艘持ち1人、5艘持ち1人、4艘持ち1人、3艘持ち3人、2艘持ち11人、1艘持ち32人であった。
 加盟業者の50人を生船業開始時期別に分類すると、「最古、古、中古、新」の4つに分かれる。生船業に従事する前の多くは大正期に漁業から転業した層であった6。先発組に当たる「最古」グループは一番古い明治末に開始した業者で、最上層に位置する5~7艘所有の3業者であった。「古」グループはそれに続いて大正初期に参入した5業者の層で、持ち船は2、3艘で、「中古」は大正中期に参入した後発の5業者の層で、1、2艘持ちであった。そして「新」は最後発組の1艘持ちの34業者で、大半が経営主の代からであった。
 つぎに富島発動機船産業組合の性格について検討を行うが、1928年の設立と1930年の改組時の関連史料が欠如している。そのかわりに現存している1932年3月に作成された「富島発動機船産業組合規約」から見ておく。これは保険代理業務を開始するに際して改正された規約であると思われる。同規約の主な内容はつぎのとおりである7
 
  規約書
   第二章 目的
  第二条 本組合ハ発動機船生魚運搬船ノ改良発達ヲ期シ、組合員相互ノ共同利益ヲ 増進シ、共存共栄ト親睦ヲ計ルヲ目的トス
  第三条 付帯事業トシテ必需品ノ共同購入、生命保険会社、火災保険会社ノ代理店 ヲ経営スルモノトス
   第四章 組織及出資
  第六条 本組合ハ末記同業者ヲ以テ組織ス
  第七条 本組合ノ出資額ハ末記頭書ノ通リニシテ各船一艘ニ対シ金弐百円ヲ一株トス
     但シ損失ノ負担ハ出資ノ目的トナシタル者ノ外ニ及サズ
   第六章 役員及役員ノ任務権限
  第十一条 本組合ニ左ノ役員ヲ置ク
    組合長一名  副組合長一名 評議員十名以内 会計係一名 購買部長一名
    販売部長一名 保険部長一名 船員共済部長一名
   第十章 付則
  第二十三条 本規約及規約執□細則ハ昭和七年参月五日ヨリ之ヲ施行ス
 
  規約(きやく)施(ママ)行細則
   第一章 規約第三条付帯事業営業方法
  第一条 本組合員ハ必要品ノ共同購入ヲ為シ、分配ヲナスモノトス
  第二条 第一条ノ分配代金貸付額ハ各組合員創立第一回出資払込金額五十円以内トス
  第三条 本組合員ニシテ必要品ノ分配ヲ受ケタル時ハ一ヶ月以内ニ其ノ代金ヲ支払フモノトス、二ヶ月以上支払ハザル場合ハ金壱百円也ニ対シ日歩参銭ノ割合ヲ以テ延滞利子ヲ付スルコトアルベシ、六ヶ月間支払ハザル時ハ除名又ハ法規ノ定ムル所ニ依ルコトアルベシ
   第三章 燃料及共同購入品歩戻金算定規定
  第七条 各船消費燃料一缶ニ対シ買入先ヨリ金四銭也ノ割戻金ヲ組合ガ受ケルモノトス
   第一項 右ノ内一缶ニ対シ金壱銭五厘也ハ其ノ年度ノ組合収入トス
   第二項 残高金弐銭五厘也ハ消費者ニ対シ旧年度末ニ払戻スルノモノトス(但シ書 略)
  第八条 共同購入品分配高代金ノ百分ノ三ハ消費者ニ年末決算ノ際割戻金トシテ支払フモノトス
  第九条 中央市場奨励金ニ関スル規定
     各中央市場ヨリ組合団体ヲ以テ受クル奨励金ハ十分ノ一ヲ組合収入トシ、十分ノ九ヲ市場売高ニ比例シテ売主ニ分配スルモトス
   第五章 組合収入
  第十二条 各船消費燃料積入伝票組合ヘ提出シタル一缶分ニ対シ金壱銭五厘也、然ラサル場合ハ一缶ニ対シ金参銭也トス
  第十三条 共同購入品分配差額金
  第十四条 各保険会社ヨリ代理店手数料
  第十五条 各中央市場ヨリ受クル奨励金ノ十分ノ一
  第十六条 各特約製氷会社ヨリ受クル壱噸ニ対スル金拾銭也
  第十七条 関係各方面ヨリ受クル奨励金並ニ寄付金
  第十八条 其ノ他雑収入
   第六章 利益処分方法
  第十九条 本組合員ハ組合ノ経費ヲ負担スルト共ニ利益分配ヲ受クルモノトス、利益配当ハ左ノ通リ定ム
      一 純益金ノ十分ノ四ハ組合別途積立金トス
      二 純益金ノ十分ノ六ハ総会ノ決議ニ依リ処分ス
 
 富島発動機船産業組合は運搬船の改良・発達と組合員(取扱業者)の共同利益の増進を目的に設立された(規約第2条)。組合は「同業者ヲ以テ組織ス」(同第6条)とあるように水産物取扱業者の同業組合的な組合の性格を有していたが、法的な根拠(漁業法、産業組合法、重要物産同業組合法)に基づいて設立されたものではなかった。各業者は運搬船1艘に付き200円を1株の出資を行い、組合に加盟した(同第7条)。
 組合の役員構成は組合長、副組合長、購買部長、販売部長、保険部長、船員共済部長各1名、それに評議員10名以内の役員を置いた(同第11条)。組合は鮮魚運搬、製氷、鉄鋼の3業務を行うとあるが、事業内容の詳細は不明である8。さらに組合は本業務の付帯事業として必需品の共同購入、保険代理業務を行い、共同購入のための資金は、組合員の第1回払込出資金を当てている。組合は1932年9月より大阪市中央卸売市場に出張員を常駐させたが、「中央卸売市場奨励金ニ関スル規定」(細則第9条)の「市場売高ニ比例シテ売主ニ分配スルモノトス」とあるように組合は中央卸売市場での各業者の出荷物の取り扱い、代金決済なども行った。一方、産地での魚問屋・仲買とは従来からの取引が継承され、生魚の買付、運搬の契約は各業者独自に行われた。このことは集荷面では各業者の経営的独自性は保たれていた。
 組合の収入は「規約施行細則」の第5章組合収入に規定されている。それによると、共同購入による分配差額金、保険代理手数料、中央卸売市場奨励金として市場売上高の1/10その他に分かれる。組合支出は規約に明記されていないので、詳細は不明であるが、組合の事業活動費が中心であったと思われる。