トシハツ組が組織化された経緯は詳しくはわからないが、前項で見た富島発動機船産業組合の組合員のなかで冬場の朝鮮海域でヒラメを買付けていた業者が中心となって、昭和恐慌下の1931年に結成された。ここではまず1934年8月付の「トシハツ組申合規約」から主な条項を見ておく。
(重要書類袋)トシハツ組
昭和九年八月
申合規約
トシハツ組申合規約
第壱条 本組合はトシハツ組ト称ス
第弐条 本組合ハ朝鮮ヨリ活魚及鮮魚ノ運搬販売ヲ以テ目的トス
第参条 前条ノ目的ノ為メ付随スル一切ノ事業ヲ行フ
第四条 本組合員タルベキモノハ従前ノ厚浦里鰈活組合員トス
第五条 本組合員ハ一船ニ付キ金弐百円也ノ出資ヲ為ス
第七条 本組合ノ存続期間ハ昭和九年ヨリ毎年九月一日ヨリ翌年四月末日限リトス
第八条 本組合員ハ一船ニ付キ出船ノ際金六百円也ノ中荷金ヲ厚浦里着ト同時ニ主任ニ渡スベキモノトス
第十条 本組合ノ総決算ハ五月トス(但シ略)
第十一条 本組合ノ傭船料ハ出船ノ一ヶ月後ニ其ノ半額ヲ支払ヒ旧正月前ニ其ノ状況ニ依リ残額ヲ支払フ
第十五条 本組合船ヲ左記ノ級別ニ区別傭船料ヲ支払フ
一級船 一ヶ月傭船料金四百円六人乗
二級船 同上 参百五十円同上
三級船 同上 参百円五人乗
四級船 同上 弐百五十円同上
第十七条 鮮魚運搬船ニ航海賞与トシテ一航海金弐十円ヲ支給シ、壱千円以上利益アリタル時ハ金五十円賞与ヲ給ス
第十八条 本組合ニ左ノ役員ヲ置ク
組合長一名 副組合長一名 理事四名 幹事七名
第十九条 前条ノ組合長及副組合長ハ名誉職トシ理事ハ業務ヲ執行ス、幹事ハ理事ヲ補佐ス
昭和九年八月弐十六日
トシハツ組は朝鮮での活魚・鮮魚の買付けのために組織化された団体(同第2条)で、構成員は従前、朝鮮でヒラメ・カレイを買付けていた厚浦里(ふほり)鰈活組の組合員(同第4条)とした。活動期間は9月1日から翌年4月末まで(同第7条)で、5月に総決算を行った(同第10条)。組合員は船1艘に付き200円を出資し(同第5条)、さらに船1艘に付き600円を中荷金(買付資金)として朝鮮駐在の主任に渡した(同第8条)。組合は運搬船に対し1ヶ月の傭船料(250円~400円)を組合員に支払い(同第15条)、運搬の航海賞与として通常は1航海に20円を、1千円以上の利益を上げたときは50円の賞与を組合より支給した(同第17条)。
以上のことからトシハツ組は業者の運搬船をチャーターして朝鮮海域での仲買業務を行っていたことを示している。
封筒(表書き)「太刀魚契約書入」
(裏書き)「トシハツ組厚浦里出張所」(印刷)
鮮魚物売買契約書(昭和九年拾月拾八日)
本契約ハ左記各項ヲ以テ甲乙ト定メ、甲ハ厚浦里トシハツ組合(ママ) 出張所トシ、乙ハ蔚珍郡蔚珍面県内津(ママ)漁業者弐拾壱名ノ代表議員林円春ヲ乙トシ、正ニ契約ス
一、刀魚ハ四拾尾入レ壱箱トシ定メ、壱円四拾銭ニ締結ス
二、鮃魚ハ生キモノニ限リ価格ハ組合ノ標準ニ依ツテ売買スルコト
三、鰆、鰤ハ時期ノ価格ニ依リ売買スルコト
四、刀魚売買ニ付テハ組合ノ手数料トシ壱箱金七銭也ヲ納入スルコト
甲ハ乙ガ漁獲物ヲ無断ニ引受ケザル場合ニハ損害賠償トシテ金五百円也ヲ[ ]通常議員ニ弁償スルコト
乙ハ甲ガ引受ケル魚物ヲ他処ニ売買スル場合ニモ甲ニ損害賠償トシテ金五百円也ヲ弁償スルコト
以上ノ損害ニ付テハ天候ノ事情ノ侭ニ遵守スルコト
同上史料によると、鮮魚の買付に際してトシハツ組出張所が地元厚浦里(慶尚北道蔚珍郡)の朝鮮人漁業者代表と一括して漁獲物の売買取引の契約を結んでいた。契約の内容を見ると、取引価格は魚種によって異なっている。たとえば、タチウオの場合、1箱40尾入1円40銭としているのに対し、活ヒラメは組合標準価格(詳細不明)、サワラ・ブリは時価相場であった。また、この契約に対してどちらか一方が違反(業者の買取り拒否あるいは漁業者の他所販売など)した場合は損害賠償として500円を相手側に弁償することになっていた。
各業者・運搬船の活動実績は、①期1931年11月―翌32年7月、②期1932年10月―翌33年7月、③期1933年7月―翌34年7月の3期が確認でき、各期のヒラメ総買上高、延べ運搬船数、平均買上高はそれぞれ、①期37,614円、119艘、316円、②期26,670円77銭、63艘、423円で、③期19,249円24銭、61艘、316円であった。