四 イヌ属の下顎(したあご)の化石

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 アケボノゾウの足跡化石の発見にかかわった、飯田市美術博物館の学芸員は、その後も、水道橋付近の調査を続けていました。そして、平成十一(一九九九)年九月一日、今度は橋の下流で、イヌ属の、前半身の部分骨の化石を発見しました。
 この発見も、アケボノゾウの足跡発見と同様、八月十四日と十五日の大雨で川底が洗われ、新しい地層が露呈していたからと思われます。
 五メートル四方の範囲に、西側から、前肢、頸椎、頭部の順に並んで発見されました。胴体と後肢は、浸食で流失したのか、発見されませんでした。
 発見されたイヌ属の化石は、下顎の第一臼歯が、約三センチメートルもありました。これは、現在大陸に生息している大型オオカミの大きさです。日本では、更新世の中期の後半から後期の前半(P23表参照)のころにかけて生息していたといわれている、大型オオカミに匹敵します。
 その後、横浜国立大学の長谷川名誉教授によって、この化石は「陸に住む食肉動物として、もちろんイヌ属としても、日本最古のもの」と鑑定されました。

イヌ属の頭骨化石復元

 
◇時間をこえた交差点
 足跡化石は、昭島のほかにも、関東平野の西側から多く発見されている。
 そして、足跡化石が発見された所からは、メタセコイア(大形の杉)と思われる化石が、必ずといっていいほど、発見される。
 このことからアケボノゾウは、低湿的な、メタセコイアの森林が広がる地域で生活していたと考えられる。
 私たちが生活している地域は、その後の地殻変動でできた所である。しかし、その西側の縁が、時間をこえて、アケボノゾウたちが生活した地域と接しているのだ。
 遺跡や遺物を調べるということは、時間をこえた交差点捜しともいえそうである。