西尾保から5通の申請書

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 大正十三(1924)年三月五日、西尾保なる人物から拝島村役場宛に五通の申請が一斉に提出されました。二つの府道(府中・青梅線と八王子・豊岡線)横断に関する「公有道路使用許可願」二通、多摩川に関する「公有河原敷使用許可願」と「公有堤防使用許可願」、そして「村道使用御願」の計五通です。村道は拝島村役場の管轄ですが、残り四通は全て東京府知事宛の申請で、拝島村役場を経由しています。
 五通の申請書は、砂利輸送のために軌条(レール)を敷設する目的でそれぞれ出され、内容は公有の道や堤防を借りたいというものです。各申請書に共通する要点は次のとおりです。 
 ①目的 南多摩郡加住村地内ヨリ砂利採取搬出ノ
目的ヲ以テ十二封度 複線軌条ヲ布設スル
 ②使用幅 二間
 ③使用期限 十五年間
 ④枕木 松丸太(三寸)
 この西尾保の申請にはいくつかのポイントがあります。まず、砂利採取地が拝島村ではなく、多摩川右岸(現八王子市高月町)にあることです。このため、西尾は多摩川を横断する軌条(トロッコレール)敷設や橋梁設置に関する申請も含まれています。
 次に、「複線軌条」と申請していることです。鉄道における複線とはレール二対(2本×2)を意味しますが、西尾の申請がはたして本当に二対であったのか、あるいは単純に二本のレールの意味であるのか、興味のあるところです。申請した道路横断幅は二間(約3・6m)ですが、これで複線が果たして可能かどうか…。
 また、重要な点は、軌条敷設に必要な土地は買い取り(買収)ではなく、民有地も含めて全て借り上げていることです。例えば、拝島駅近くの積込所も個人から十五年間の賃貸契約を結んでいます(青梅電気鉄道文書「昭和四年十二月改メ現行諸契約其ノ一」15I01ほか)。借り上げのため土地の分割などが行われず、これが線路跡の特定を困難にしています。
 

画像③2 西尾保公有道路使用許可願
(拝島村役場「道路関係」大正9年~所収)