西方に奥多摩の山々を望み、清流多摩川の段丘上に位置する昭島市は、遠く八~九千年も昔の縄文時代より、すでに人々の居住していたことを示す遺跡が各所に存在しております。
また、平安時代の集落跡なども最近発掘され、古代社会から現代に至る壮大な道すじがいま私たちの前に一つずつ解明されようとしております。
ところで、このように古い歴史に育くまれてきた昭島の地も、戦後の急激な社会変化と都市化の波の中で、昔日の面影をとどめないほどに発展を遂げた一方、先人たちの生活や文化を今に伝える遺産の多くが破壊され、散逸してしまいました。
こうした状況のもとで、祖先の残した所産を守るとともに、郷土の歴史を知りたいという市民の声が高まり、市では昭和四十九年の市制施行二十周年を記念して、市民憲章の制定とあわせ市史編さん事業に着手いたしました。
爾来、多くの人々の御協力を得ながら調査・研究を進めてまいりましたが、この事業を通じて、今まで市内の旧家にひっそりと眠り続けていた江戸時代の古文書や、今日では行なわれなくなっためずらしい習俗など、数々の貴重な史料が発見され、所期の予想を超える大きな成果をおさめることができました。
ここに、それらの成果を集大成し、昭島市史を発刊できますことは、この上ない喜びであります。
本市史にも見られますとおり、かつてこの地は、歴史の表舞台に現われるような華やかさはありませんでした。しかしその陰に、各々の時代をひたむきに生き、往時の社会を根強く支えてきた先人たちの、たくましい姿を忘れてはなりません。
そして、これら祖先が残した偉大な足跡を後世に正しく引き継ぐためにも、一層文化財の保護育成に努めるとともに、市民と手を携え、旧に倍するものを築き上げる決意を新たにするものであります。
終わりに、この昭島市史編さんにあたって、長期にわたり真摯に計画、審議を賜わりました編さん委員、ならびに調査執筆を直接担当された皆様に、深甚なる敬意と感謝の意を表するしだいであります。
また、貴重な資料を御提供くださった市民の方々に対し、衷心より厚く御礼申し上げます。
昭和五十三年十一月
昭島市長 皿島忍