一 昭島市の気候条件-気温

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 昭島市域の自然環境を考える場合に、いま一つ基礎的な要素として注目しなければならないのは、気候条件である。武蔵野台地の気候条件は複雑多様であって、ある点では日本列島の気候条件のうちでも、最も多様性に富む地域であるとみられる。それは、その東部の地域は首都圏の中枢、東京都区内の地域であり、そこではいわゆる都市気候の卓越している地域である。大阪市や名古屋市と共に、日本で最も都市気候の条件を具えた顕著な地域である。然るにその西部の地域は、それとは異る台地性の平野気候の代表的な地域であって、いわゆる関東平野の気候を代表する地域と目されるのである。そして更に台地を限る西境の関東山地は、いわゆる山地の気候に推移していて、台地の平野気候とは全く異った地形変化の影響を強くうけている局地性気候の傾向の著しい地域をなしている。この三つの特異な気候型が、台地の東から西へと漸移しているという多様性が認められるのであり、昭島市は、その気候条件の上からはこの三つの型の中間である台地性の平野気候の典型的な地域に立地している。
 三つの気候型のそれぞれの特色についてみると、まず都市気候を代表する東京都区内(例えば千代田区)では、年平均気温が一四・七度であるが、最寒月の一月では三・七度に低下し、最暖月の八月では二六・四度に上昇する。この数値をみても明らかなように、年平均値よりもかなりかけ離れた高い気温や、低い気温があって、その高低の激しいことを示唆している。そして冬季でも都区内は比較的高温であるが、北部ではそれよりも平均して一度前後低くなり、西部の昭島市附近より西するにつれて二度以上低くなる。山地においては三度以上も低くなるのであるが、夏季には全体的に平均していて余り著しい変化がない。最高月の八月では、東京湾沿岸で二七度、昭島市以西で二六度、山地帯で二四度以下となっていて、都市地域の都市気候と、郊外の平野気候との気温差が、月平均気温分布上からみると、夏季には都市気候の影響が余り明瞭ではないのに、冬季においてはそれがきわめてはっきりと現われてくることを示している。すなわち昭島市の気候は一概に言って、冬季においてその特徴である平野気候型を明確に示すといえる。
 都市気候における最低気温の高温化という現象は、(一)煙霧層の効果、(二)建造物の過度の増加による気温の乱調と、熱交換の状態の差、(三)建造物の構成物質の熱的性状の差、(四)大気汚染物質の分布、などの諸条件が考えられているが、昭島市域のような、いままで余り建造物が密集せず、いわゆる郊外地域として田園景を保存していた時代では、こうした気候型の相異がはっきりと感じられてきたのであるが、今後、衛星都市化が顕著になり、ベッド・タウンとして発展をしてくるにつれて、気候上での都市気候化現象が浸透してきて、近き将来、やがては昭島市の発展が、この附近の気候を平野気候型から、東京都区内並みの都市気候型に変化させる日も近いことが想像できる。
 このような最低気温分布上の、冬季における著しい変化を端的に反映している現象として明瞭に看取できるのは、植物季節の現象である。一例として桜花の開花期日や、満開期日の変化をおってみると、そのことが一層はっきりする。桜の一種ソメイヨシノの開花期日をとってみると、東京都区内でも、海岸部と江東区とが最も早くて三月二八日。隅田公園から上野公園にかけての、台地末端部では、一日おくれて三月二九日。飛鳥山から新宿御苑、洗足池から吉祥寺の井の頭公園附近までを含めた、都区内西部全域が更に一日おくれて三月三〇日。そしてそれより西の郊外村山市・立川市・昭島市を含めてそれ以西の台地ではまた一日おくれて三月三一日となっている。すなわち武蔵野台地の東部と西部とでは、大体において三日~四日程度の差があることが示されているので、それだけ気温の変化があることが明瞭にわかる。