昭島市の気候条件を述べる時に、落してはならない、いま一つのものは、「赤っ風」である。関東平野に卓越する冬の季節風は、よく「からっ風」と言われるように、乾燥していて強烈である。東京では一〇月から翌年の三月にかけて、北北西ないし北の風向頻度が二五%を占める。冬季には、東京都区内では平均すると北寄りの風が卓越するが、武蔵野台地の西部をなす、東京都西郊地域では北寄りの風の頻度はやや少なく、やはり北北西ないし北風の風向をとるものの方が多い。この風は春四月頃の砂塵と共に有名である。特に小金井市から立川市、そして昭島市にわたる地域では、「赤っ風」というのがこの風の俗称で有名である。四月から五月にかけては、一寸した風でも、関東ローム層の地表面に接する三〇~五〇センチの厚さまでは、乾燥して含水量がきわめて微弱になってくると、さながら土壌の表面は灰を積んだのに等しい状態になっていて、忽ち蒙々と土煙を立ちのぼらせる。立ちのぼる土煙はローム層の赤土の微粒子であるから、天空を紅に染めつくすので「赤っ風」という俗称がおこった。風速が五~六m/sに達し、表土の含水量が一〇%であれば、耕地に風蝕がはじまるので西郊地域では、一冬の間に何回となくこうした状況に見舞われるのである。この「赤っ風」は昭島市を含めたこの地域全体の余り芳しくない名物の一つであった。しかし衛星都市化の進展につれて、この地域のそれまでの空閑地が住宅地にかわり、紅塵万丈の供給源であった耕地が姿を消すようになり、砂利道が舗装されつくすに至って、著しく紅塵が立たなくなってきたので、都市化と比例して次第にこの名物は消滅しつつある。