D 苧種説

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 真淵が説明しなかった「旡邪」について、解説を加えたのは、鳥居龍蔵博士である。鳥居博士は武蔵の語源について、朝鮮語で説く新見解を示された。「ムサシ」という地名は、「ムサ-シ」と分解され、「ムサ」というのは、朝鮮語の「モシ」 moshi で、白麻のことである。「シ」は同じく朝鮮語のシ shi で、種子の義であるから、「ムサシ」は「モシシ」 moshi-shi という朝鮮語からでた語で白麻、すなわち苧-「カラムシ」-の種子のある所という意味である。武蔵国は古くから苧の有名な産地であったから、その物産に因んだ命名だとする説を述べられた。特に多摩川流域の地域では、『万葉集』にも見えるように、また調布とか布田とかいう地名にも示されているように、白麻の布を河原で晒して、麻布を生産して調としていた程であるから、この布の産地、またその原料の産地であった多摩川の流域から、武蔵の地名がおこったとして差支えないという見解であった。この見解は武蔵国の現実的な歴史的事実に立脚して説かれた説であって、考究に値するものである。