同じく武蔵の語源を苧麻に求める説であるが、解釈の異なる見解が、言語学者松岡静雄によって提示されている。その説は、「ムサシ」の「ム」は実、「サ」は麻、「シ」は「チ」に通じ、「チ」は道である。すなわち「ムサシ」は、「ム-サ-シ」という三語の合成で、〓麻の産地という意味だというのである。「ムサ」は現代日本語では「ムシ」となり、「カラムシ」といえば苧麻のことである。アイヌ語では「ムセ」・「モサ」といって蕁麻のことであるが、これも「ムシ」と同源であり、朝鮮語で苧布のことを「モシ」というのとも同源である。「フサ」は圃麻のことで、圃麻を産する地域が「総(フサ)の国」と称されるのと同様に、「ムサ」を産する地方が「ムサ道(チ)」と呼ばれ、後に「チ」が「シ」と転訛して「ムサシ」となったというのが、松岡説の骨子である。