二 東国の農工具

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 木製農耕具製作に不可欠な道具は、磨製の石製工具であった。東国の弥生時代石器で最も普及していたのは大陸に起源をもつといわれる太形蛤刃石斧、柄の着装部にえぐりのある抉入石斧、大工〓(かんな)の刃に似た大陸起源の扁平片刃石斧、ノミ形の小形柱状片刃石斧などで、これらはほとんど宮ノ台期の所産であり、新しいものでも久ケ原期である。蛤刃石斧は大木の伐採に適し、抉入石斧は木材の切断や木割に、扁平片刃石斧はそれを柄にチョウナと同じように着けて木割材の荒削りに使われた。細部の削りには柱状石斧が利用され、鉄製工具が入手できなくとも、東国弥生人はこれらの石製工具で十分農耕具を製作することができた。

南関東地方出土の弥生時代の石器(関俊彦氏論文から)

 こうして作られた農耕具は谷地開拓と水田耕作に、また集落周辺の畑地耕作にも利用された。石器のうちで農具であったものは石庖丁であるが、東国の石庖丁は一〇点にみたず、収穫は貝製庖丁によったと考えられている。石庖丁の発見された遺跡は、神奈川県の神庭・ひる畑・猿島・三殿台の各遺跡、東京都板橋区徳丸町、埼玉県新座市西上などで、貝製庖丁は神奈川県間口洞穴からたくさん出土している。貝庖丁は東京湾産の大形貝穀を利用したもので、東国において石庖丁の少ないことが貝庖丁の普及によって説明されている。