二 東国人の種族構造上の特色

320 ~ 322 / 1551ページ
 以上のような日本民族形成史の過程の中で、日本人の中の東国人としてとり分けてみられる特色は、どういう点にあるかというと、それは地域的な形質上の特異性ということに帰せられるであろう。
 まず東国人の基盤は、繩文人の中で、主流をなす、繩文文化の中心地帯の住民であった原日本人とみることができる。そして古東京湾の沿岸にそって、全関東地方にくまなく分布していた繩文人は、均質的な一種族を形成していたとみてよいであろうが、早くも中期以降になると、西日本から南方系の漁撈民が少量ずつ移住してきて、海岸地帯に分布し、原日本人と混血をしたものと思われる。そして弥生時代になると、弥生人が東海地方から伊豆・相模・武蔵・上総・常陸の海岸地帯の低地帯に移動定住し、繩文人と弥生人との混血も行なわれた。この繩文人の中には、特に東北北部の三県の地域にはかなり濃密な分布を示している原アイヌ人の混血の影響もあったし、弥生人の中には稀薄ではあっても南方系種族の混血の影響も、間接的には認められるかも知れない。東国人と西日本の住民との差異は、主として原日本人を基幹として、それと混血した種族の相異、及びその種族との混血の濃度の度合の差によって生ずるところの形質上の差異にあるということができよう。
 すなわち、西日本の住民は、原日本人と、インドネシア族・インドシナ族などの東南アジア系種族との混血、及び南ツングース族(扶余族・〓貊系種族)・韓族・漢族などの大陸系種族との混血の濃度が、直接的であり、かつかなり濃いのに対して、東国人の場合は、原日本人と北アジア系の原アイヌ人との混血が間接的に行なわれた程度であり、また南方系諸種族との混血も、西日本の地域で、弥生人としてある程度混血が完了していた人びととの混血という、間接的でかつ混血の度合が稀薄であることが指摘されよう。要するに東国人の人種的基盤は、原日本人の形質を濃厚に継承し、それに北アジア系種族-主として原アイヌ人の血液を間接的に混入していたという点に特色があり、西日本の原日本人がうけていた濃厚な東南アジア系種族の混血は、きわめて稀薄であり、かつ間接的であったとみられることが、東国人と、西日本の日本人とを差異づける要点であって、その型差は混血した種族の相異と、その濃度の差に帰せられる。

東国人の人種的構造と西日本住民との関係図