B 拝島大師の大般若経

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 拝島大師本覚院には、嘉永三(一八五〇)年の日附をもつ『大般若波羅密多経(だいはんにゃはらみたきょう)』六〇〇巻が所蔵されている。現在は近年になって建立された文珠楼に納められている。このほとんどの巻には、巻末に先祖供養料などをそえて納経した人の村名・人名が一巻ごとに記されている。これが近世末期の拝島を中心とする地域小信仰圏が、どのような姿であったかを示してくれるのである。
 「大般若波羅密多経」というのは、古代インドのサンスクリット語を漢音化した名称である。波羅密多(はらみた)とは、仏陀の悟りの境地である彼岸にいたること、般若(はんにゃ)とは真実をつかむ知恵のこと。すべてのものを悟りの境地に導くための、真実をつかむ知恵を説いた経典、ということになろう。そのなかで説かれている真実とは、すべてのものは一切が空であり、人が執着すべき何物でもない、ということで、この経典の心髄を要約した『般若心経』のなかの「色即是空・空即是色」の語で、今でも人々によく知られている。六〇〇巻は、唐の高僧玄奘(げんじょう)によってインドからもたらされ漢語訳されたといわれているもので、日本につたえられてからも、顕密諸宗の寺々では最高の経典として重んじられた。これを転読する法会(ほうえ)は、「大般若経会(え)」とよばれ、古代では毎年四月六・七日におこなうことが慣例とされた。昭島市域でも、本覚院のほか普明寺・竜津寺・観音寺などの諸寺で毎年おこなわれ、今でも人々に親しまれている。