近世中期以降の商品流通・交通の発達のうえにすすんでいた信仰心の多様化~流動化は、遠隔地の有名寺社への参詣の旅というかたちでもあらわれていた。信仰が一村落内にとじこめられていた状態からの一つの解放であり、いろいろなところに物見遊山をする娯楽としての新しい面もかねていた。
庶民が村をはなれて、参詣の旅をする習慣は、全国的にみれば近世初頭にはすでにおこなわれており、とくに伊勢神宮へは、全国各地から参詣するものが多く、近世を通じて「おかげまいり」とよばれる全国規模の群集参詣が、およそ六〇年に一回の周期でおこっていた。近世での最初は、慶安三(一六五〇)年であったという。三三か所巡礼の札所がさだめられたのも、一七世紀後半であった(藤谷俊雄『「おかげまいり」と「えゝじゃないか」』三五~六頁による)。