二 北多摩郡の自由民権運動

1417 ~ 1417 / 1551ページ
 神奈川県では明治一二(一八七九)年頃から県下各地で演説会や懇親会が開かれるようになった。三多摩地方におけるこのような会合は、当初は五日市・八王子などの地方で開かれることが多かったが、明治一三(一八八〇)年に入ると北多摩郡でも開催されるようになってきた。その端初となったのは同年一二月五日、府中の高安寺で開かれた神奈川県武州懇親会であった。その席上嚶鳴社の肥塚竜が演説して人々に感銘をあたえた。同じ頃、石坂昌孝、中村克昌、佐藤貞幹、吉野泰三らの代表的民権運動家も郡下で勧業教育演説会を催し、自由民権を鼓吹していた。
 ついで明治一四(一八八一)年に入ると演説会は一層、活発になり末広重恭、竹内正志、堀口昇、沼間守一、肥塚竜ら中央の著名人を招いて府中、小川、布田、中藤、小金井、芋久保、狭山、奈良橋などの各村で開催された。これらの会合において特に北多摩郡内で大きなを活躍をしたのは吉野泰三、(野崎村)中村克昌(上石原駅)、内野杢左衛門(蔵敷村)らの人々であった。各地の演説会・懇親会は郡内における民権運動の輪を広げ、かつ運動にたずさわる人々の連帯を強めていった。この情況はやがて人々の間に政治結社を作りだそうとする機運を醸成し、政社を結成する方向に導いてゆくことになる。