市域では各家の現実の本・分家関係にある親族集団とは別に、数代前に本・分家関係を有していた特定の数戸の家々から成る「ジルイ」とか「ジシンルイ」と称される家関係が見られる。このジルイ・ジシンルイを構成する家々は皆同姓であり、血のつながりは遠いものとなってはいるが、古くに本家より分かれた親類であって、一般に言う同族集団に該当するものである。
中神には、小町姓、篠姓、川島姓、清水姓、中野姓等のジルイ集団がある。そうしたジルイ関係の一例として、中神における川島包(カネ)家のジルイ集団を挙げておくことにする。
川島包(カネ)家のジルイ関係にある家は、一二軒あり、その関係等は以下の如くである。
(一)川島包(カネ) (本家)
(二)川島重吉 (本家)
(三)川島喜久治 (川島包家より江戸期に分家)
(四)川島重次郎 ((三)と同じ)
(五)川島武雄 ((三)と同じ)
(六)川島新作 (川島重吉家より江戸期に分家と伝えられる)
(七)川島啓司 ((六)と同じ)
(八)川島啓三 ((六)と同じ)
(九)川島永蔵 (本・分家関係不詳)
(一〇)川島義治 ((九)と同じ)
(一一)川島義雄 ((九)と同じ)
(一二)川島和雄 ((九)と同じ)
(以上は川島新作氏談による。)
このように川島姓を名乗り、川島包家や川島重吉家と数世代前に本分家関係にあったと考えられている(それらの関係が不詳のものもあるが、少くとも同系であると考えられているものも含めて)一二軒の家が「ジルイ」集団として相互に認識されている。これら各家は、明治以降今日に至るまで新たなシンヤ(分家)をそれぞれ有してきているが、それらのシンヤはジシンルイには加入してはいない。
このジルイの日常生活における交際は、血のつながりがはっきりしている現実の本・分家関係にある家集団よりは薄いものである。ジルイの成員は、その関係にある家々の「ソウリョー(惣領=長男)」の祝儀や、世帯主の葬儀といった、言わばその関係にある家の家長或いは相続者に係わる祝儀・不祝儀にのみ参加する程度のものである。二男や三男の祝儀などの場合には、ジルイ関係にある者はジルイ成員としては係りをもたぬのが普通である。
また、ジルイ集団は、祖先神や屋敷神、或いは職業神的な神などを合同して祭祀したり、稲荷講を一緒に行ったりするなど、信仰生活面での結びつきを有することが多い。福島町の三田日吉家のジルイ集団の例では、その成員が稲荷講を一緒に行い、二月初午には、皆が合同の祠堂前に集まり、日待ちをすると言うことである。前述の中神町川島姓のジルイ集団は、昭和二〇年代まで伝統的に「妙見様(ミョウケンサン)」の信仰を共同して行っていたと言われ、その妙見様の共同の祠は、かつては川島包家にあったが、明治中頃に川島啓司家に移され今日に至っていると言う。そして毎年三月一二日には成員各家のもちまわりの宿で日待ちが行われ、米三合を集め、飲食を共にしたとのことである。
註補
一 例えば中神では、かっては同村内の他の講中地域にシンヤに出ても、講中は本家の講中に加入することになっていたということである。