五 ヒッカキ

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 ヒッカキとは、漁撈者が口にくわえて固定させる箱眼鏡をつけ、河川内に入り、その箱眼鏡を通して水中の瀬付きの繩張り鮎の動きを見つつ、これを「ヒッカキ棹」と称される先端が鉤状になっている一種の〓によって引掛けて捕獲する漁法を言う。ヒッカキ掉は、全長二メートル前後の竹棹を基体とし、その先に断面がU字状になっている金属製の傘の骨部を利用した「糸受け」部をつけ、その先端部を筒状に加工し、離脱式の〓先を差し込むための着装部をとりつけたものである。〓先は、一本の鉄製の軸に手元側に湾曲させてある針を通常五本付けたものであり、この五本の曲った針のいずれかによって鮎を引掛ける。〓先の軸には三味線糸が結びつけられており、その糸は〓先の着装部の筒の中を通り、さらに糸受けを通り、竹棹の柄部まで延びている。鮎が引掛かると、離脱式の〓先が着装部を離れ、糸が延びる。糸の先端には大きな結節がつくってあり、その結節が筒部にひっかかり、糸が本体より離れないようにしてある。従って鮎は〓先をつけたまま、糸の延びる範囲内を逃げ回る。〓先を基体に固定しないのは、商品としての鮎にできる限り傷を与えないためであり、また固定式であると、引掛けた際に逃げようとする鮎の動きで、鮎が鉤針から離れてしまうからと言うことである。

第4図 ヒッカキ棹

 このヒッカキによる鮎漁は、他の諸種の鮎漁法にも増して高度な技術と熟練を要するものであり、それ故この漁法を行う者は少なかったようである。市域内では、郷地にこのヒッカキを専門に行う者が一五名ばかりいたと言う。それらのヒッカキ専門者はモジなどの他の漁法は行わず専らヒッカキにより鮎を捕獲していたと言われている。また、市域では五本の鉤針のついた道具を使うのが一般的であったが、八王子や五日市方面のヒッカキの熟練者の使用している〓は、針が一本しかついていなかったと言うことである。
 ヒッカキ漁を行う場合には、必ずヤスリを携行する。これは針先を常に鋭く研磨しておく必要があったからに外ならない。その他の携行品としては、木綿製の細長い網状のビクがある。長さは六尺ばかりあり、口の部分が狭く、奥の部分が広くなっているもので、腰に紐で結びつけておき、捕獲した鮎はその都度その網の中に入れて漁を続けたのである。