鮎の釣漁としては、ドブヅリ・トモヅリ・瀬ヅリ・コロガシ・サクリ等、今日遊漁的に盛んに行われているものが行われていた。これらの釣漁はは一般的にも良く知られているものであるから、詳述はさけ、ここではドブヅリとトモヅリ・瀬ヅリについて触れておくこととする。
ドブヅリは、川の流れのゆるやかな深み(水深が一丈五尺~二丈。「トロバ」と称す)において行われる釣漁である。三間程の竿に糸をつけ、糸の先端には蚊針をつけ、針から一尺-一尺五寸ほど上にナマリダマ(沈子)をつける。それを瀞場に入れ、底に沈子がつくまで沈めてから水面までゆっくりとひき上げる。その引き上げる過程でアイが食いついてくるのである。
第5図 ドブヅリの仕掛け
蚊針などの漁具は、八王子の釣道具屋へ行って買ってきた。蚊針は本物の鳥の羽根製のものであり、色々な種類・色のものがあって、天候や流れの濁り具合等の諸条件にあわせて使い分けをした。一般に天気の良い日には黄色味のかかった羽根のついた蚊針を用いると鮎の食いが良いという。
トモヅリは、周知の如く、鮎の繩張り性を利用し、そこに囮りの鮎を侵入させて争わせ、針に引掛けて釣り上げる釣漁である。その仕掛けは第6図にある如きである。竿先から二-三間のところに「オオ」と称する鉛製の重りをつける。これは囮りの鮎を川底に潜らせるためのものである。そのオオから一尺五寸程下にハナカンをつけ、それを囮り鮎(「タネアイ=種鮎」と称す)の鼻につける。そしてさらにタネアイの鼻先からテグスを二寸ばかり下げて針をつける。
第6図 トモヅリの仕掛け
以上の仕掛けを使って、タネアイを流水のゆるやかになっている瀬に入れて、繩張り鮎のつくっている繩張り(これを「ジバン」とか「ジバ」と称す)へ誘い入れて争わすのである。ジバンは良くアカ(水苔)のついている大きな石の周囲につくられていることが多いということである。
瀬ヅリは、膝ぐらいの深さの瀬で行う釣でドブヅリと同じく蚊針を使用して行うものであるが、浮子をつけて、その下方六尺程の間に、五~六本の蚊針をつけ、瀬の中央に投げ入れ、川の下流側に流し、川のふちまで寄せて来る。昔は浮子も桐の下駄を材料にして自分で作ったということである。