人為的な産卵場所は、本瀬でない流れのゆるやかな、比較的細かい砂利のある平瀬の岸寄りの場所に作る。先づ深さ二尺あまり(七~八〇メートル)の摺鉢状の穴を掘り、その表面にアカ(水苔)のついていない細かな砂利を一面に敷きつめる。この摺鉢状の穴が産卵場所となるのである。アカのついている砂利だとハヤが集まらないと言う。砂利は「タマヌキ」と称される砂利ふるいでふるって、適当な細かさの砂利を選り出して使う。通常一寸二分以下三分以上の細かさの砂利が最適であると言うことである。
この穴を作る際肝心なことは、穴の上流部にあたるところに「アゴ」と称する小山状の突出部を作ることである。これは、第8図のように、穴の内部で川の流れが一回転するようにさせるためのものであり、そのような流れをつくらないと、ハヤは寄りが悪いという。というのは、穴の上を流れが素通りしてしまうと、卵が底部の砂利につかないで、穴の外に流れ出てしまうからとされている。さらにそのような流れを生み出すため、穴より四尺ばかり上流の地点に、水面よりわずかに隠れる高さに、大きな玉石によって堰をする。これにより水流は上り下りの変化を生じ、穴の中で一回転して流れるようになる。それを確かめるためには、草などを上流より流してみると言うことである。草が水面に浮いたまま穴の上を通過すれば、その仕掛けに欠陥があることになり、穴に入り込めば仕掛け具合いが良好であることになる。
第8図 ハヤのクキヨセの仕掛け
ハヤが穴に集まったら、その穴を覆うように投網を打つ。しかし、通常の投網とは異なり、投網後それを引き寄せるのでなく、手元の綱をすぐ放す。投網は流れに従って手元部が下流へと流れて行く。それから投網によって覆われている穴の部分を、手や足によって網の上から叩くようにして、ハヤを脅し、下流に流れている投網の手元部分に追い込んでから網を上げ捕獲するのである。
クキヨセの仕掛けが良いと、何度でもハヤが寄りつくので、一日に何回も大量の漁獲をあげることができたと言うことである。