第一節 誕生と育児

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成人式

 核家族で表現される現代と大家族で生活をしていた半世紀以前とでは「家」に対する概念に相当の差異が認められるが、このことは単に日常の家庭生活上の問題だけでなく、人の誕生や育児にも大きな影響を与えている。出産という面についても、かつては、姑や親戚の体験者からいろいろと教えを受け、出産当日まで家庭の仕事に従事していることさえ珍らしいことではなかった。また、出産時になれば近所の産婆の手を借りてお産が無事にすんでいたが、時代の推移とともに、現代では婦人雑誌や家庭医学書や医師の指導によって出産の心得を充分身につけてお産にのぞみ、近代的設備の整った病院でお産をするようにと変化してきている。「お産は女の大病」といわれてきたが、この言葉も消滅しそうになっている。しかし、時代が進展し技術的な進歩があっても、人の子を思う親の心情にはかわりがなく、新しい生命の誕生には五体健全を願い「妊婦が火事をみると赤いアザのある児が生まれる」などという科学性のない俗信にも留意しているようであり、また、水天宮様などの安産の守護をしてくれる神社に参詣し、岩田帯をしめるなどの風習が今でも大都会の生活の中で行われている。
 人々はこの生命の誕生という厳粛な事実や今後の成育について、長い間の生活体験から成長の過程で遭遇するであろうと思われる災害や病気からその生命を守るために、成長の各段階の度に多様な儀礼を考案し、その風習を今日まで伝えてきている。
 市内においても同様に明治、大正の時代に行われた通過儀礼について、中には消滅した儀礼もあるが、その一端は現代にも継承されてきている。
 本節では出産から成人までの過程における諸儀礼について、市内在住の古老の方々の生活体験を素材にしてまとめてみた。