クチガタメの儀礼で実質的に婚姻が成立するが、この婚姻を社会的に公表するのが結納である。婿方のナコウド、ハシカケ、親戚や近所づきあいの代表が立会人として同道し、嫁方の家へ金品を持参する。結納の品には朱塗りの酒の角樽にコンブ・鰹節・スルメ・麻・ナガノシが通例で、それに結納金が添えられた。昭和八年頃五〇円が結納金の相場で、明治時代の末頃から大正時代にかけては二〇円程度が普通であったと、ある古老が語っていた。
三重杯と角樽
嫁方はナコウド、両親、親戚や近所づきあいの代表が出席して、座敷で結納の儀礼を行う。その後、娘も同席して祝宴が始る。嫁方から婿方には袴代として金銭が返えされた。
結納後、娘は嫁入りの準備をして婚礼の日を待つようになるが、婚約者と逢うようなことは余りなかったようである。
市内ではかつては挙式前に嫁となる人が婿方の家に入るという、「アシイレ」といった風習があったようだが、明治、大正の時代では殆んどみることがなかった。