五 クチガタメ・ユイノウ

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 ユイノウ(結納)をかわす前の婚約の儀礼が「クチガタメ」であり、両家がこの婚姻を正式に承諾したことを意味している。両家のナコウドが決まるとハシカケは酒一升と肴代を携えて嫁方に行き口約束をする。ナコウド、娘、両親と共に持参した酒を飲む風習で、結納や婚礼の日取りなどを決めてクチガタめが成立する。中にはハシカケシの代りに婿方のナコウドがクチガタメの儀礼に行くこともあった。
 クチガタメの儀礼で実質的に婚姻が成立するが、この婚姻を社会的に公表するのが結納である。婿方のナコウド、ハシカケ、親戚や近所づきあいの代表が立会人として同道し、嫁方の家へ金品を持参する。結納の品には朱塗りの酒の角樽にコンブ・鰹節・スルメ・麻・ナガノシが通例で、それに結納金が添えられた。昭和八年頃五〇円が結納金の相場で、明治時代の末頃から大正時代にかけては二〇円程度が普通であったと、ある古老が語っていた。

三重杯と角樽

 嫁方はナコウド、両親、親戚や近所づきあいの代表が出席して、座敷で結納の儀礼を行う。その後、娘も同席して祝宴が始る。嫁方から婿方には袴代として金銭が返えされた。
 結納後、娘は嫁入りの準備をして婚礼の日を待つようになるが、婚約者と逢うようなことは余りなかったようである。
 市内ではかつては挙式前に嫁となる人が婿方の家に入るという、「アシイレ」といった風習があったようだが、明治、大正の時代では殆んどみることがなかった。