婚礼の日は婿方から嫁を迎えに行くのが通例であった。当日の午前中か午後に、婿、婿方のナコウド、ハシカケ、親戚や近所づきあいの代表などが、奇数の人数で、昼間でも提灯を下げて嫁方に「ヨメムカエ」に行く。嫁方では祝宴の準備をして待っていて、両家の人々の紹介から始り、婿方の「この盃どうしましょう」という発言に嫁方の仲人が「とりむすんでさげてもらいたい」という応答があり、一同盃を交わして縁を結ぶ。祝宴のおひらきにはソバやウドンが出されるのが通例であった。嫁はこの間に氏神様への参詣や近所まわりの挨拶をすませておき、夕方実家を出立する。嫁入り道具は式前に運んでおくことが多かったが、古い時代では嫁迎えの時に荷車の上に乗せて持参したようである。嫁方からはナコウド、兄弟姉妹や親戚、近所づきあいの代表が立会人として弓張り提灯をかかげて同道した。途中まで婿方の講中、組、近所づきあいの人達が五人程度で嫁迎えに行くのが通例であった。
大正時代の末期頃、八王子から嫁入りしたある古老は、自動車で石川橋の渡船場まで来て、橋を渡ると河原まで婿方の人達が提灯を持って迎えに来ていたことを良く憶えていると語っていた。
嫁が婿方の家に到着すると婚礼の儀礼が始るが、嫁は勝手口にまわり台所からタキ火をまたいで座敷に上った。中には雄蝶、雌蝶と呼ばれる男女の子供が手にタイマツをもって、地面に交差させた上をまたぐという風習もあった。嫁は座敷に入って休み、衣裳を整えて婚礼披露の座敷へ入った。