第三節 葬送

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 今までみてきたように、人は一生涯の過程において、両親をはじめ身内や周囲の人から、初誕生の祝、成年式、結婚式などの多彩な通過儀礼の祝福を受けて成育し、社会の事実上の構成員と認められ世に送り出されるが、その人の生涯の終着の儀礼が葬式である。
 この死者を葬る儀式は「オトムライ」と呼ばれ、一個人の死ではあるが社会的な性格が強く、葬式は地域社会の習俗にしたがい、葬式組などの周囲の人々の協力によって執り行われるのが普通である。また、葬送は人の死という厳粛な事実についての儀礼であり、その内容は多彩で人間味をも感じさせ、しかも、他の儀礼とは異なって、比較的に従来の風習が継承されている。しかし、社会生活の推移によって、都市の生活ではこの葬送の習俗が簡略化、形式化する傾向をみせ、中には消滅してしまった儀礼もある。
 市内においても同様な傾向をたどってきてはいるが、各町々の従来の生活集団に大きな変革もないことから、比較的葬送の習俗が多く継承されている。特に、葬送のための講組織にしても、従来通りの機能をもって運用されているように、生活の文明化による多少の変化はあっても、葬送儀礼は厳粛さをもって執り行われている。