熊野神社獅子頭
本節では、昭島市の各町に継承されている幾つかの民俗芸能をとりあげることにする。
民俗芸能とは、民間に古くから伝承され、民俗行事の中で行われるさまざまな芸能を言い、具体的には、神楽、田楽、舞楽、風流(祭囃子、獅子舞、念仏踊等)と言われるものが、それに属するものである。神楽にせよ風流にせよそれらは皆、単にそれを演じたものを見て楽しむといった娯楽を目的として生み出されて来たものではなく、本来は人々の実生活-とりわけ信仰生活-との直接的な結びつきの中で自然に発生してきたものである。例えば神楽は、鎮守の祭礼、年々の正月行事などの鎮魂(たましずめ)・招魂(たまふり)の祭礼の際、神を招く神座を清めるための舞いや神懸りの舞いとして生まれてきたものとされ、また風流は、悪疫災難をもたらす悪霊や御霊を、笛や太鼓をはやし、にぎやかな行列や踊り等によって、その悪神を喜ばし或いは嚇して追い払うものであった(註一)。
しかるに近年の生活文化の大きな変容の中で、これらの民俗芸能は、往々にして或るものは消滅化し、また或るものは本来の意味を失いつつも、単なる娯楽的な芸能として、その形を今に伝えているといったことが多い。そうした一般的傾向の中にあって、これからとりあげる拝島町及び福島町の祭礼囃子、中神町の獅子舞は、幸いなことに古くから各々保存会が結成されていることもあって、伝統的な形式や、その本来の実生活における意味や役割を保ちつつ、今日に受けつがれてきている民俗芸能の格好の例であると言える。我々の祖先が、さまざまな祈願や信仰をそれに籠めて伝えてきたこれらの民俗芸能を、それぞれのもつ本来の意味や機能を再認識し、後世に伝えることが、今日に生きる我々の一つの責務でもあるように思える。