海面変化と気候変化

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 千葉市の下総台地の形成をみると、台地をとりまく過去の海面の高低は現在の海面と大きく異なっていることがわかる。この海面変化は過去の気候変化とほぼ一致している。この事実は第四紀の氷河時代の気候の研究が進むにしたがって明らかにされつつある。低海面期は寒冷期(氷河期)、高海面期は温暖期(間氷期)とは確実に対比できるようなっている。世界の氷河期はギユンツ期、ミンデル期、リス期、ウルム期の順に出現した。この氷河期には海退をして海面が低下し、間氷期には海進が発生して海面が上昇した。一―七図は現在の海面と気候を基準とする過去の海面と気候の高低を示している。

1―7図 南関東における第四紀気候―海面変化曲線(成瀬洋による)

 下総台地には多摩ローム層はなく、下末吉ローム層・武蔵野ローム層・立川ローム層が堆積している。これらのローム層を堆積した時期をそれぞれ多摩期・下末吉期・武蔵野期・立川期とし、沖積世の有楽町層の堆積期を有楽町期とする。氷河時代に海面が現在よりいちじるしく高かった時期は多摩期・下末吉期であり、武蔵野期と有楽町期にはやや高海面であった。有楽町期の高海面は沖積世の後氷期の海進を発生させた。立川期はウルム氷期であり、多田文男著『自然環境の変貌』によれば、当時の海面は現在より八〇メートルも低かったと述べている。成瀬洋の論文「日本の洪積編年のための資料と二、三の考察、南関東における気候―海面変化を中心として」によれば、リス・ウルム間氷期は下末吉期であるとしている。武蔵野期の海面はヨーロッパにおいて現在の海面より七・五~一八メートルも高いものであり、武蔵野期の高海面は下末吉期から低下してきた海面の昇降が一時的な停滞期の海面であった。武蔵野期の海面は東京付近では現在の海面より二〇メートルも高いと推定されている。下末吉期の海面は現在の海面より三〇~五〇メートル高かった。気候学の計算によれば、武蔵野ローム層の形成期は約八万年前の温暖期とし、下末吉ローム層の形成期は約一二~一三万年前の温暖期としている。これよりも古い氷河期と間氷期の時代測定はいまだ確実ではない。