第三項 自然環境の悪化とその対策

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 自然災害はその土地の宿命である。しかし被害を小さくする防災力と被害を回復する復旧力は政治・経済・計画などの人為的な力である。古来から千葉市に発生した自然災害はすくなくはないと思われるが、文献に残っているものはあまりなく、人々の記憶にとどまっているものも多くない。このことは千葉市には自然災害がすくなく、居住地としてめぐまれた土地であるという考え方を一般にひろげている。そのために千葉市は防災施設を怠り、災害抵抗力を弱小ならしめていることがなければ幸である。過去に大きな自然災害がなかったことは、将来も発生しないという保証にはならない。
 県下の自然災害として暴風雨、水害、山崩れ、地震、津波、高潮、干害、冷害、ききん、いなごの虫害などについて古くからの文献がある。
 千葉市の自然災害もまたさまざまに発生している。地震についてみれば、慶長九年(一六〇四)十二月、元禄十六年(一七〇三)十一月、安政元年(一八五四)十一月、安政二年(一八五五)十月、大正十二年(一九二三)九月に発生している。このうち安政二年を除いていずれも千葉県沿岸に津波が襲っているが、千葉市には津波が襲来していない。暴風雨は天保四年(一八三三)八月、安政四年(一八五七)、明治三十五年(一九〇二)九月、明治四十四年(一九一一)六月、大正六年(一九一七)九月、昭和二十二年(一九四七)九月に来襲している。これらの暴風雨のうち、明治四十四年と大正六年には海岸の漁村に被害が多く、とくに大正六年には高潮による被害が大きかった。水害には特筆すべき災害はなく、明治四十三年(一九一〇)八月に都川・葭川の濁流が中心街に浸入したことがある。干害は近世の開拓が進んだときに各地に発生したが、特に大きな被害にはならなかった。海岸の低地の干害は近世初期の丹後堰の開通によって解消された。
 千葉市に自然災害の発生がすくなかったのは、災害を発生させる自然条件がすくなく、山地がないから、地形性の集中豪雨が発生しない。したがって大洪水はなかった。河川は中小河川であり、流域面積はせまいから、大洪水も発生せず、下流に大水害を発生させることもあまりなかった。東京湾は入口がせまく湾奥が広く、遠浅であるから、津波・高潮の発生もすくなかった。地震があっても低層家屋の市街であるから、倒壊がすくなかった。河川の下流部の低湿地は深泥田として利用し、洪水には遊水池の役割を果たしてきた。台地の開畑は山林面積と調和させ、防風や水源かん養の役割を果たす山林を乱伐しなかった。つまり千葉市の自然環境は千葉市のゆるやかな発展とバランスがとられており、自然環境を悪化させたり、破壊したりすることがなかった。そのために千葉市に自然災害がすくなかったのである。
 最近の千葉市の自然環境は悪化して、自然環境の一部は破壊されている。千葉市は国の経済の高度成長期に急速にかつ膨大な発展をつづけている。この時期の都市づくりは経済と効率の原理のみが優先して、生活と必要の原理は無視されがちである。「千葉市は自然災害がすくなくめぐまれた土地である」という認識はすでに過去のものとなっている。千葉市には刻々に自然環境の悪化が進行している。更に自然災害がひろく深刻に発生する条件が潜在的に拡大している。
 千葉市に臨海工業地帯の造成と住宅都市として都市人口が激増するにともなって、自然環境はいちじるしく悪化している。大気汚染、水質汚濁、地盤沈下やさまざまな自然環境の悪化は深刻化している。大気汚染はいおう酸化物・降下ばいじん・浮遊ふんじん・一酸化炭素・二酸化窒素などが大気中に増加している。また、光化学スモッグの被害もあらわれ、公害病患者も続出している。水質汚濁は飲料水源である印旛沼の水質の汚濁をはじめ、市内を流れている都川・葭川・花見川・村田川は強汚濁河川となっている。東京湾はこれらの河川から流入する汚濁水のみならず、工場排水を加えて死の海に近づいている。地盤沈下は市の沿岸地帯から内陸にかけて進行し、昭和三十八年から四十七年までに生実町では四六センチ、轟町では五一センチも沈下している。特に生実町は四十六年に年間二一・二センチも沈下し、この年度の県下の最大沈下量として注目されている。この地盤沈下は従来まですくなかった水害も将来は発生するようになる。新しい都市型水害として、海岸の地盤沈下のはげしい低地はゼロメートル地帯となり、高潮による浸水地帯となりやすい。また、台地における大規模宅造地は森林が皆伐されて流出水が増加し、中小河川に鉄砲水を発生させて洪水となる。下流の市街に排水施設が不完全であるならば急激な浸水となるだろう。海岸の埋立地は干潟をなくし、湾水の自浄能力を消滅させた。また高潮があれば、埋立地は島状に海面上にあっても、地盤沈下した背後の内陸の低地には浸水して湖沼化するだろう。
 千葉市の自然環境は変質している。自然環境をつくりあげている自然の一つに変化を与えたならば、それに対応する防災施設を築造しなければならない。台地の山林を皆伐して住宅団地としてコンクリートで地表を被覆することは、雨が地中に浸透できなくなるという自然の変化が発生する。もう豪雨があれば河川に鉄砲水がでる。これに対応して河川の護岸工事と河幅を広げて排水能力を高めることが必要である。千葉市の自然環境は変化している。この変化に対してそれぞれの対策を実施することが要請されている。