米価変動

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 千葉県農会誌『愛土』記事を総合すると、米価の変動は米の生産量と結びついていたことが分かる。明治四十三年には七パーセントの減収で、石当たり米価は、一月の一一・二円から、十月には一五・五円、翌年には二〇円に上昇した。大正九年は一〇パーセント増収により、一月に五五円であったものが、年末には二五円に暴落した。翌十年には六パーセントの減収で、三月ころの二六円から、十月には四二円に上昇し、年末は三六円に下降した。この年七月、米穀法が施行され、政府が二億円を限度に、買上げによる供給量の調節を行った。また、県でも融資を受けて農業倉庫の増設、保管米に対する貸付をして、新米出廻りを阻止し、適当な期間を置いて売出しをする策もあった。しかし、市価は依然として不安定、一般農家は安閑として、新米を保管しうる力なく、安値で売崩すより他に方法がなかった。大正十二年は五パーセント減収、一月の二八円から七月以後三五円となり、翌年五月の端境(はざかい)期には三八円に値上りした。当時の米生産原価を五―四八、四九表により紹介する。
5―48表 昭和5年産米生産費調査
単位 円
県内自作農
15戸平均
都村小作2戸
玄米収量石 
3.455 
石 
3.100 
種子代0.68  0.71  
自給肥料5.95  12.00  
購入肥料7.93  7.55  
家族労賃22.77  30.69  
雇入労賃5.41  0.22  
農具損料2.16  0.64  
建物償却4.53  0.63  
租税負担7.40  1.34  
土地資本利子17.78  17.50  
計 74.61  71.28  
副収入4.43  8.85  

(『千葉県農会誌』による)


5―49表 米1石の生産費調査
米作 反当たり経費(2石1斗の収量)
種子代(4升)1円80銭
労賃(男1.2円×19人 女0.7円×13人)31円90銭
肥料代15円  
公租・公課5円40銭
建物・農具償却費4円  
  〃  修理費3円  
俵装その他3円  
土地資本利子25円20銭
  (地価360円×7%)
89円30銭

   1石当たり 44円
(注)土地資本利子を控除すると32円位となる。

(千葉県農会『愛土』大正10年1月号より)


 県農会からの投売り防止指令は、石当り三五円を目途にしていた。米価は大正十四年以降、連続下降して、ついに、昭和五~七年のどん底には二〇円を割るところまで、低落した。

郡農会による投売り防止のビラ

 問題は米価の上下に即応して、一般物価や労賃、特に生産費の中に繰りこまれる、肥料・農器具の価格が平行すれば良いのだが、現実はそういうわけには行かなかった。工業製品は不況下に、生産調整が行われるとともに、一方的、独占的に価格が決定されるから、いわゆる、シェーレ状価格差を生じ、農家経済を圧迫した。農家の対抗する手段は、他に有利な商品作物も見当らないので、ひたすら生産を続け、収入減は増収と、自家消費を切りつめての、販売量増加しかない。昭和九年、県農会調査によると、この飯米欠乏農家は、県下一六万農家中、約三割にあたる四万八千八百戸に達した。
 欠乏農家が五割を越える町村数は、五月現在で一〇四に上がった。諸支払いのため、やむをえぬ売り過ぎ、所有耕地の狭小が原因とされる。彼らは兼業収入で再度米を購入するか、地主・商人に借入を頼まなければならなかった。
 地形による水田率の大小にもよるが、市域における、産米自給可能村は、生浜・椎名・白井・更科・都・千城で、残る蘇我・誉田・都賀・犢橋・検見川・幕張は不足する町村であった。『千葉県史、大正・昭和編』によると、大正七年の米騒動の時、千葉郡の状況を次のように記している。
 農家の日雇いは一日八十銭から一円位になるが、野菜・麦類の収穫期(八月のこと)なるを以って収入もあり、生計困難ならず。労働者は各種の事業勃興せる結果、収入多いばかりでなく、人員に不足をきたす程で、これまた生計に困難ならず。漁民不漁の場合、各種工場に雇われて糊口をしのぎ、いまだ減食するものを聞かず

(県警察部調査結果)


 当時の新聞では「誉田村等気息奄々(えんえん)たる 下層農民の生活米も買えず(八月二七日)」とあり、誉田村の場合、村内三百戸中の半数が生活米を買えず、役場が、麦一升二〇銭、米一五銭という廉売券を交付しても、百戸程しか買いにこない。調査したら、一五銭の外米すら買う金がなく、とうもろこし、枝豆、未熟の甘しょを食べている。それすら思うに任せないと減食して、子供らは飢えに泣いていたとある(五―五〇表参照)。
5―50表 千葉女子師範学校の献立(大正10年秋)
麦飯1.5合麦飯白米の豆めし
さつま汁(いも)シナ料理(肉,大豆,葛)トーフの澄し
香のもの香のもの
麦飯1.5合赤飯麦飯
ねぎ汁さけ照焼,酢ばす,きのこの澄し,豆きんとんキャベツと大根のおろしあえ
香のもの
麦飯1.5合麦飯麦飯
青菜汁さつまいも,人参,ごぼうかき揚げマッシュポテト(肉入り)
香のもの
麦飯1.5合麦飯麦飯
車麩煮付35匁位の魚切身,大根煮付おさつあんかけ
香のもの香のもの
麦飯1.5合麦飯パン60匁
里芋の汁焼肉20匁牛乳5勺
香のもの
麦飯1.5合麦飯麦飯
あさり汁粟漬35匁里芋,ごぼうゴマ煮
香のもの
麦飯1.5合もち米2合麦飯
豆腐の汁おはぎ(きなこ,ごま)カレー(肉20匁)
香のものらっきょう漬

◎1日2,422カロリー,平均39銭,日曜と水曜は別におやつがある。

(大正12年4月の県農会誌『愛土』)