魚類漁業の衰微と養殖業の発展

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 大正~昭和前期は魚類漁業が明治後期からひきつづいて水揚高が多かったが、昭和前期の末にあたる昭和十年代から急速に水揚高が減少しはじめた。まいわし・せぐろいわし・あじなどの回遊魚は豊漁・不漁をくりかえして不安定な水揚高となってきた。かれい・ぼら・いな・きす・このしろ・はぜなどの沿岸魚族の水揚高は減少した。いか・えび・かになども減少してきた。この原因は乱獲と内湾の底質変化であった。沿岸魚族の繁殖地となっていた藻場が消滅しつつあった。千葉市の新宿町沖から市原市八幡町沖まで帯状に海底にあった「ながも」は大正期には消滅して、八幡町沖のみに残っていた。ここは八幡の藻場といって特にいか・せいごの漁場であった。千葉市の沿海は自然の岩礁がなく、遠浅の砂泥地であった。海が浅いので夏と冬とでは海水温度が大きく変化し、海藻も繁茂せず、冬になると魚族は沖に去って海の砂漠となった。昭和十五年ころ人工藻場を造成することが問題となったが、ついに実施されなかった。千葉市は漁労をすてて貝・のりの養殖を発展させる方向をとった。
 貝類の養殖は大正期から本格的に行われた。夏の浮魚漁が減少する冬の三カ月において貝類採取は漁業者の重要な現金収入源となってきたが、大正期には貝類も乱獲で採取が十日もつづかなくなっていた。大正八年(一九一九)に浮魚漁業者一六一名を組合員として「千葉市貝捲漁業者組合」を結成して貝類養殖をはじめた。これから貝類養殖が千葉市の地元海面に普及して、貝類の採取が一冬をつづけることができるようになった。稚貝を大森・浦安方面から移入して、干潟に蒔きつけた。養殖地は沖合にはまぐり・ばかがいとし、汀線近くの干潟にあさり・しおふきとした。この貝類区画漁場は一坪につき年一厘五毛の漁業料を組合員から徴収して使用させた。貝類養殖組合ははまぐりの貝捲漁業組合のほかに寒川・五田保・登戸・黒砂のあさり養殖の四組合が結成された。これらの養殖組合の採集日数は一冬のうち三五日から四〇日もできるようになった。稚貝の蒔付量は年に一万――二万樽、二千円から八千円に達した。千葉市貝捲漁業組合は、貝類の採集について乱獲にならないように統制し、さらに共同販売と売上金の分配まで行った。組合員は出漁ごとに一日一人につき一円五〇銭を分配された。昭和期には貝類の年間販売量は三万――四万樽であり、その金額は二万――四万円になっている。このうち約八〇パーセントは組合員への分配金となり、残りは稚貝蒔付資金として積立てられた。
 のり養殖は蘇我・生実・浜野の地先海面に行われてきた。しかしほしのりとして製品の光沢が悪いので品質不良であった。そのためおもに種ひびの供給地として養殖されていた。ほしのりの生産は大正初期は一六〇貫・二千円であったが、大正八年から急増をはじめ、七百貫・一万七千円台となり、主要水産物の一つとなってきた。昭和七年には千葉市の水産高約二〇万円の中で三万六千円をしめ、種類別にみれば、ほしのりほど高額の生産額をあげるものはなかった。また漁業者は昭和八年末に専業が二〇三戸、兼業四百戸、計六〇三戸のうち、のり養殖者は四八四戸に達した。これに対して貝類養殖者は一、五一七名となっている。これは昭和八年の漁業雇用者で本業としている者二八三名、副業としている者三七五名、計六五八名を含んでいる。のり養殖者は漁業者の専・兼業者が主としていたが、貝類養殖者は、漁業者とこれに雇用される漁村労働者も参加していたからである。
 これらの魚類・貝類は千葉市魚市場(寒川)に出荷されて市内と市原郡・印旛郡に供給された。この魚市場は千葉市鮮魚問屋組合の経営で加入問屋は一三であった。年間の取引額は約七〇万円をこえた。この魚場に参加する鮮魚小売商・棒手振は約五百名もあり、鮮魚合同組合を組織した。これらの小売商・棒手振は毎朝このせり市場に集って取引をした。また水産加工業者は本業四五人、兼業七六人、これらの雇用者二〇三人(昭和八年)となっている。これらの加工業者は原料とする沿岸魚類の水揚減少から生産が苦しくなってきた。千葉名産の粟潰のこはだが不足してまいわしが原料となってきた。佃煮の原料のはぜが減少してきたので、木更津方面に原料の買出しにでかけるようになった。
5―68表 千葉市の水産額(昭和8年)
漁獲物
まいわし1,625
せぐろいわし1,325
かます120
かれい1,221
あじ2,000
ぼら910
いな609
きす729
このしろ1,032
こち180
はぜ1,925
いか2,836
えび6,765
その他431
小計21,708
水産養殖物
あまのり19,536
あさり31,935
はまぐり20,062
きんぎょ328
小計71,771
水産製造物
ほしがい4,624
あわづけ11,216
かまぼこ18,923
つくだに26,588
ほしのり36,774
貝類10,410
小計108,535
合計202,014

(『千葉市水産資料』)