戦前の埋立

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 昭和十五年(一九四〇)六月二十三日に、内務省土木会議港湾部会で東京湾臨海工業地帯造成計画が決定され、その一環として千葉市都川河口以南今井、蘇我地先の海面を軍需工場(日立航空機製造株式会社)用地造成の目的で、九〇万坪の埋立が着手されることになった。

5―18図 昭和15年6月土木会議の計画の1


5―19図 昭和15年6月土木会議の計画の2

 この事業は、千葉市が、海軍省直轄の日立航空機製造株式会社を誘致するため、埋立免許権を獲得して市営で行ったもので工費は当初一、〇三二万九八五八円(後一、二八二万五二一七円に変更)で、昭和十五年十二月二十三日起工し、三カ年継続の大事業であった。
 これより先、日立側は進出する好適地を物色して、昭和十四年当時から地質調査のボーリング等を行っていた。市は、昭和十五年十一月一日に、日立側と海面埋立てに関する契約書を締結した。
 なおこの埋立事業には、浅野財閥系の東京湾埋立株式会社(現東亜港湾――最初は、自ら埋立した土地を売却する土地開発会社であったが、戦後海上業者として、埋立、浚渫、護岸等の工事をしている)や、船橋の埋立業者などの先願者があったが、公共団体である千葉市が、優先権があって、県知事から埋立免許権を得た。工事施工は東亜港湾と浚渫の一部を若松築港(現若松建設)が請負った。機械力の導入が行われたため、あまり地元の人を人夫として使用することはなかった。浚渫船はポンプ式で、有吉知事時代のバケット式より能率化し、末広丸(千馬力)、潮田丸(八百馬力)、大師丸(八百馬力)以上の電動船と、後には最新鋭のディーゼル船武蔵丸(千四百馬力)も投入された。工事は、六〇万坪埋立てたところで終戦となり、一時中止となったが、これが後に川鉄誘致の最大の呼び水となった。
 そこで、「千葉市と日立航空機製造株式会社両者の埋立てに関する契約書」を記載すると以下のとおりである。
                              千葉市
  昭和十四年九月二十五日附願公有水面埋立ノ件免許ス
   但シ別紙命令書ノ通リ心得ヘシ
  昭和十五年十二月十七日           千葉県知事 立田清辰
  昭和十五年十二月二十八日          千葉市長 永井準一郎
    日立航空機株式会社
     専務取締役 横田千秋殿
   海面埋立免許ノ件
  本年十一月一日付ヲ以テ契約締結致候千葉市地先海面埋立工事ノ儀同年十二月十七日付ヲ以テ千葉県知事ヨリ免許相成候ニ付御諒承相成度別紙免許書写相添ヘ此段及御通知候也
   命令書(一部省略)
                              千葉市
  右出願人ニ対シ公有水面埋立ヲ免許スルニ付本命令書ヲ下附ス

第一条  公有水面埋立ヲ免許スル区域ハ願書添付図面ノ通ニシテ
第一期
 自千葉市今井町二七〇番
 至千葉市蘇我町二丁目八七番地先海面四四万三六八七坪八合
第二期
 自千葉市今井町二七〇番
 至千葉市寒川町一丁目八一番地先海面四四万九六一二坪六合
此面積合計八九万三一〇〇坪四合トス

第二条  埋立ノ免許ヲ受ケタル者ハ免許ノ日ヨリ起算シ一ケ月以内ニ着工スヘシ
前項ノ工事ニ着手シタルトキハ直チニ千葉県知事ニ届出スヘシ

第四条  防波堤(延長一九三八米)寒川町地先埋立地内道路延長五二一米(面積一五一〇坪八勺)荷揚場延長三一六米(面積一九二六坪九合)並ニ暗渠延長八九〇米(内径一米三〇)ハ国ニ帰属セシメ港湾陸上設備用地利用実施ニ当リテハ予メ千葉県知事ノ承認ヲ受クヘシ

第五条  埋立地内道路別紙添付図面ノ箇所延長二四一四米二〇幅員九米(面積六四二一坪七合)ハ之カ幅員ヲ一五米(面積一万九五四坪三合二勺)ニ拡張シ国ニ帰属セシムルモノトス

第六条  埋立地ニ表土其ノ他ノ施設ヲ以テ土砂飛散防止ノ適当ナル措置ヲ構スヘシ

第七条  埋立地ニ関スル権利ノ設定又ハ譲渡ニ付テハ千葉県知事ノ許可ヲ受クヘシ

第八条  工事中ハ日没ヨリ日出迄通船ノ安全ヲ保ツ為適当ノ場所ニ標燈ヲ掲クヘシ

第九条  埋立区域ノ境界ハ出願人ニ於テ区画シ石又ハコンクリート製境界標ヲ建設スヘシ

第十条  本命令書第四条及第五条ニ依リ国ニ帰属シタル防波堤道路荷揚場暗渠及航路水路ノ維持修繕ハ埋立ノ命許ヲ受ケタル者ヲシテ之ヲ負担セシム

第十一条 構造物ハ地質ヲ再調千葉県知事ノ承認ノ上之ヲ施行スヘシ

第十二条 前各条ノ外公有水面埋立法並ニ同法施行令ヲ遵守スヘシ


                                  以上
  昭和十五年十二月十七日
                          千葉県知事 立田清辰
    契約書
  千葉市長永井準一郎ヲ甲トシ株式会社日立製作所及日立航空機株式会社ヲ乙トシ甲乙間ニ千葉市地先埋立事業ニ付左ノ条項ヲ約定ス

第一条  甲ハ工場誘致ノ市是ニ基キ内務省土木会議ニ於テ決定セル東京湾臨海工業地帯内千葉市地先海面都川筋ヨリ生浜町境界ニ至ル間約九〇万坪(末尾添付図面表示ノ通リ)ノ埋立ヲ為シ乙ノ工場敷地ヲ造成スルモノトス

第二条  甲ハ本件埋立ニ関シ計画工事設計並費用ニ付予メ乙ト協議ノ上其ノ明細書ヲ作成シ之ニ基キテ事業ノ遂行ヲ図ルモノトス

第三条  甲ハ本件埋立ニ関シ官庁ニ対シ出願申請届出等ヲ為サントスルトキハ予メ乙ト協議ノ上之ヲ為スモノトス

第四条  本件工事ノ請負契約並請負人ニ付テハ甲乙協議ノ上之ヲ決定ス

第五条  本件埋立ニ要スル免許料工事費工事施行区域ニ於ケル漁業権其他諸権利ノ補償費用及工事ノ遂行ニ伴ヒ必要ナル一切ノ経費ハ乙ニ於テ之ヲ負担スルモノトス但シ漁業権其他ノ諸権利ノ補償費用ニ付キテハ予メ甲乙協議ノ上之ヲ決定ス
前項ノ本件埋立ニ要スル諸費用ハ本件埋立計画ハ工事ノ進捗ニ伴ヒ其ノ都度甲乙協議ノ上所要額ヲ乙ヨリ甲ニ前渡スモノトス
前項ノ諸費用ハ第七条若クハ第九条ニ依ル権利移転ノ際之ヲ精算スルモノトス

第六条  本件埋立工事ニ伴フ資材ノ供給ニ付テハ乙ハ甲ニ協力シテ事業ノ進捗ヲ図ルモノトス

第七条  本件埋立工事ニ対シ竣功(一部竣功ノ場合ヲ含ム)ノ認可アリタルトキハ甲ハ其ノ造成セラレタル埋立地ヲ遅滞ナク乙ニ譲渡スルモノトス

第八条  本件埋立工事竣工(一部竣工ノ場合ヲ含ム)認可前ト雖モ甲ハ埋立工事ノ進捗ニ伴ヒ官庁ノ許可ヲ得テ既成ノ埋立地の逐次乙ノ使用ニ供スルモノトス
前項ノ場合ニ於テハ乙ハ速急ニ工場建設ニ着手シ甲ノ市是達成ニ協力スルモノトス

第九条  本件埋立工事ノ竣工前ト雖モ甲乙協議ノ上官庁ノ許可ヲ得テ本件埋立ヲ為ス権利ヲ甲ヨリ乙ニ譲渡スルコトヲ得前項ノ場合ニ於テハ甲ハ乙ノ埋立事業遂行ニ協力スルモノトス但シ協力ニ要スル費用ハ乙ノ負担トス

第十条  埋立地域内ニ於ケル必要ナル道路荷揚場其他公共用地ニ関シテハ別ニ甲乙協議ノ上之ヲ定ム

第十一条 乙ニ於テ工場用水、電気瓦斯、水道鉄道引込線道路設置等本件埋立工事ニ依リ造成セラレタル埋立地上工場若ハ其附属施設ニ必要ナル設備ヲナス為当該官公署其他ト交渉スルトキハ甲ハ乙ノ為可及的便宜ヲ供与シ之ニ協力スルモノトス

第十二条 本約定ニ依ル乙ノ義務ニ付テハ株式会社日立製作所及日立航空機株式会社ハ連帯シテ其ノ責ニ任ス


  右後日ノ為本契約書三通ヲ作成シ甲乙各自記名捺印ノ上各一通ヲ保有ス
   昭和十五年十一月一日
                         千葉市長 永井準一郎