千葉市の動き

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 この経済更生計画は市以外の県下全町村で推進されたので町村計画の全ぼうが記されている。したがって千葉郡各町村のうち、現在千葉市となっている椎名村、蘇我町、生浜町、都賀村、千城村、白井村、犢橋村、誉田村、更科村、都村、検見川町、幕張町山武郡土気本郷町でもそれぞれ計画がたてられている。しかも各町村のうち共通しているものは町自体の問題と消費経済の合理化と生活改善、産業の振興、農業経営組織の改善、生産販売の統制、労力の合理化、貯蓄の奨励、各種団体の活動促進と連絡統制、女子、男子青年団活動の在り方など全般にわたって生活を根本的に改めるよう計画されている。

経済更生指導員打合会   (『千葉県経済更生計画大観』)

 全町村の計画をあげれば適切かも知れないが、大なり小なり類似していて重複する点が少なくないので、ここでは椎名村の「経済更生計画実施要項」をあげる。そのほかの町村は、それぞれ共通問題以外の特異なものだけをあげることにしたい。椎名村をあげたのは、特別の理由があるわけではないが、『千葉県経済更生計画大観』の中の千葉郡の部の最初に出ているので、取り上げたにすぎない。
  椎名村経済更生計画実施要項
 一、土地利用ノ合理化
  イ、作物ノ転換、種子ノ交換、裏作及間作物ノ栽培ヲ行ヒ田畑ノ利用回数ヲ増加スル等耕地使用ノ経済化ヲ図ルコト
  ロ、空地、宅地、畦畔、堤塘、池沼ヲ整理シ果樹、草花、蓮根ノ殖栽又ハ養魚池トシテ利用スルコト
 二、交通機関ノ完備

交通機関特ニ交通路ノ完否ハ産業開発上大ナル関係ヲ有スルヲ以テ之レガ完全ヲ期シ生産物ノ販売、肥料其ノ他必需品ノ購入ニ対スル損失ヲ補フベク十ケ年計画ヲ以テ之レガ改修ニ努メムトス


 三、販売購買ノ統制

土地、資本、労力ノ分配利用ヲ適正ニスルト共ニ生産費、経営費ノ軽減、生産物及経営用品ノ配給統制ヲ期スル為メ産業組合ノ設置ヲ速ニナスコト


 四、納税組合ノ改善

本村ノ納税成績ハ概シテ良好ナルモ一般村民ノ負担力減少セル現下ノ情勢ニ鑑ミ特ニ納税組合ノ改善ヲ期シ之レガ規程ノ改正ヲ行ヒ以テ一層実績向上ニ努メムトス


 五、米ノ増殖ト品種ノ統制

本村生産物中米ハ其ノ最タルモノナレドモ水稲ノ品種頗ル雑多ナルヲ以テ之レガ統一ヲナシ品質ノ向上ト増収トヲ図ルコト


  イ、増収計画 五ケ年内ニ反当四石ノ実現ニ努ムルコト
  ロ、品種統一 県奨励品種中最モ本村ニ適スルモノヲ選ビ統一ヲ期スコト
 六、農家経営組織ノ改善
  イ、共同経営ノ普及徹底

米麦其ノ他農産物ノ共同販売、肥料及飼料ノ共同購入、農用器具機械ノ共同購入ヲ実行スルコト


  ロ、経営用品ノ自給

堆肥ノ増成、緑肥作物トシテノ紫雲英ノ栽培ヲ奨励シ経営用品ノ自給範囲ノ拡充ニ努ムルコト


  ハ、農業簿記ノ励行

男女青年団及篤農家ノ活動ヲ促シ予算生活ヲ強調シ家計簿農業経営簿ノ記帳ヲ励行シ以テ放漫ナル消費経済ノ合理化ヲ図リ農業ノ計画的経営ノ実行ヲ確実ナラシムルコト


 七、労力利用ノ合理化
  イ、適切ナル副業及生産物ノ加工

適切ナル副業ヲ奨励シ農閑労力ノ活用ヲ図リ生産物ノ加工ニヨリ農家経済ノ資ヲ得シムル為メ左記事項ヲ奨励セントス
1筍(孟宗ノ殖産) 2養鶏 3養豚 4藁加工トシテ繩、俵、草履


  ロ、機械力ノ利用

優秀ナル農業用器具機械ノ共同購入ヲナシ機械力ヲ利用シテ労力ノ節約ヲナスコト


  ハ、畜力ノ利用

本村ハ馬ノ飼養漸減スルノ傾向アルヲ以テ畜牛ト共ニ之レガ飼養ヲ奨メ自給肥料造成ヲ図リ労力ヲ節約スルコト


 八、農家経済ノ改善
  イ、生活用品ノ自給
  1. 綿花栽培ハ今ヤ全ク絶エントスル現状ニ鑑ミ之レガ栽培ヲナシ自家用織物作業服等作リ現金支出ヲ節減スルコト
  2. 醤油ノ自家製造ヲ一層奨励スルコト

  ロ、消費経済ノ合理化
   生活ハ総テ簡素ヲ旨トシ冗費ノ防止ニ努ムルコト
  1. 服装、住宅ハ質素実用ヲ旨トシ流行ヲ追ヒ華美ニ流レザルコト
  2. 台所ノ設備ニ就テハ経済、衛生、火防等ヲ考慮シ之レガ改善ニ努ムルコト
  3. 掛買ハ絶対ニ廃スルコト
  4. 家計簿ヲ利用シ予算生活ノ実行ニ努ムルコト
  5. 廃物利用ニ努ムルコト
  6. 冠婚葬祭ニ要スル器具類ハ成ルベク共同ニヨリ設備スルコト
  7. 購買ハ産業組合ヲ利用スルコト
  8. 節酒節煙ヲナスコト

 九、生活改善ニ関スル事項
  イ、時間励行
  1. 時間ヲ尊重シ業務ノ能率ヲ高ムルコト
  2. 諸会合、出勤等ノ時刻ヲ正確ナラシムルコト
  3. 常ニ規律的生活ヲナスコト

  ロ、初産、節句
  1. 初産、節句ノ祝着ハ現金ヲ以テシ各自分ニ応ジ華美ニ亘ラザルコト
  2. 祝儀ハ二円ヨリ十円ノ範囲ヲ越エザルコト
  3. 長男、長女ニ限リ他ハ内祝ニ止ムルコト
  4. 雛、五月幟、千葉参リノ贈答ヲ廃スルコト

  ハ、出産、紐解祝
  1. 祝宴及祝物ノ贈答ハ可成近親者ニ止メ簡素ヲ旨トスルコト
  2. 長男、長女ノ外ハ宮詣リニ止ムルコト
  3. 服装ハ実用ヲ旨トシ華美ノモノヲ用ヒザルコト

  ニ、婚礼
  1. 儀式ハ厳粛ヲ旨トシ神前又ハ祖先ノ霊前ニ於テ行フコト
  2. 衣服、調度ハ総テ質素ヲ旨トシ式服ハ可成一着ニ止ムルコト
  3. 祝宴ハ簡素ヲ貴ビ終始ノ時間ヲ厳守シ飲酒ヲ強ヒザルコトナキ様留意スル
  4. 土産物ハ儀礼ヲ主トシテ簡単ナル物トシ引出等廃止スルコト
  5. 手伝人ハ婚家ヨリ依頼サレタル者ニ限ルコト

  ホ、葬儀竝法要
  1. 誠実厳粛ヲ旨トシ虚礼ニ亘ラザルコト
  2. 執行ノ時間ヲ厳守スルコト
  3. 香奠ハ成ルベク金銭ニ依ルコト、近親縁故以外ハ金一円ヲ越エザルコト
  4. 香奠返シ引菓子等ハ一切廃止スルコト
  5. 小児ノ場合ハ香奠ハ大人ノ半額以内トスル
  6. 飲酒ハ近親者ト雖モ限度ヲ定メ一般者ヘハ禁酒スルコト但シ当日重要ナル出役ノ者ヘ一升ヲ限リトシテ供スルコトヲ得
  7. 葬儀以外ノ法要ハ可成近親者間ニ於テ質素ヲ旨トシテ行フコト
  8. 信者ヘノ施物ハ之レヲ廃止スルコト
  9. 新盆見舞ハ可成金銭ニ依リ簡単ニ止ムルコト

  ヘ、年始、祭事、祝儀、見舞、餞別、入営除隊
  1. 年始ノ廻礼ヲ廃シ学校、神社等便宜ノ場所ニ集リ賀礼ヲ交換スルコト
  2. 年末、中元ノ贈答ハ廃止スルコト
  3. 祭典ハ厳粛ヲ旨トシ饗応等ニ冗費セザルコト
  4. 祝儀、見舞、餞別等ノ贈与ハ物品ヲ廃シ可成現金トシ金一円ヲ越エザルコト
  5. 入営除隊兵ノ送迎式ハ各部落ノ鎮守ノ神前ニ於テ執行シ近親者ノ外ハ其ノ住宅ヲ訪問セザルコト
  6. 見送リ出迎ハ戦時其ノ他ノ特殊ナ場合ノ外各部落ニ於テ為スコト
  7. 入営祝ノ贈物、除隊兵ノ土産物ハ絶対ニ廃止スルコト
  8. 送迎旗ハ各種団体制規ノ会旗ノ外他ニ之レガ為メ作ラザルコト

  ト、宴席
  1. 座席ニハ氏名ヲ記載セル札ヲ備ヘ着席ニ便シ時間ヲ空費セザルコト
  2.  酒盃ノ献酬ハ成ルベク為サザルコト
  3.  終始ノ時間ヲ励行シ司会者ヨリ閉会ノ宣言アリタルトキハ一同直ニ退席スルコト

  チ、貯金、其ノ他
  1. 規約貯金、共同貯金、納税貯金等ヲ企テ励行スルコト
  2. 諸催事ニ節約シタル費用ハ納税組合、産業組合加入金又ハ確実有利ナル募債ニ応ズル等ニ努メ尚余裕アル者ハ村公共事業ニ寄附スルコト
  3. 生徒児童ノ服装ハ質素ニシ学用品ハ学校ノ指示ニ基キ整理統一ヲナシ消費節約ヲナスコト

 一〇、団体トノ連絡協調

経済更生計画ノ実行ニ当リテハ全村協力一致シ自奮更生隣保共助ノ精神ニ基キ其ノ効果ノ徹底ヲ期セザルベカラズ、之レガ為ニ学校、男女青年団、婦人会、戸主会、農会、実行組合等各種団体トノ連絡協調ヲ図リ計画実行ノ統制、本実行要目ノ徹底ニ努力スルコト


  各部落ニ於テハ右計画要項ニ基キ其ノ部落ノ実情ニ即シタル実行事項ヲ決定シ之レヲ三月末日迄ニ委員会ニ報告スルモノトス

経済更生のポスター(『千葉県経済更生計画大観』)

 そのほか椎名村とニュアンスは違うが共通している問題点以外の計画を各町村別にあげてみると次のようなものである(原文は片かなまじりで文章も漢文調であるため現代文になおした)。
 ▽生浜町 納税組合が設置されていないところは、このさい速やかに設置すること。記念貯金など適切な計画をたて勧奨すること。水産加工の改善及び増産、適切な副業の奨励につとめるとともに、稚魚の乱獲防止ならびに繁殖などについて相当施設、収入の増加をはかること。
 ▽蘇我町 納税組合の数が未だ三分の一に達していないので、このさい極力設置し、納税上遺憾なきを期すること。
 ▽都賀村 交通機関の完備は、産業、生活上重要につき、各部落は毎月二日以上の修繕日を定めて、降雨のさい泥濘スネを没し、車馬の往復がとまることのないように努力すること。納税組合の設置奨励。農作物の品種統一、統一によって県農業試験場のテストによると六分(六パーセント)増収の実績を示している。五カ年間に全部更新のため各部落に原種採種田を設けるようにすること。勤労意欲の減退を改めること。
 ▽白井村 耕地七八八町歩(約七八〇万平方メートル)に加えて、さらに一六町歩(約一五万八千四百平方メートル)を開こんしたが、収量が比較的少ないので、増産をはかること、六五〇戸の住民に対し、各戸ごとに栗の木を植えさせること。自給肥料づくりに三二名の督励員をおくこと。国産品愛用をすすめ、やむを得ない場合のほかは舶来品を使用しないこと。児童、生徒の服装を質素にすること。
 ▽犢橋村 このさい経済計画を確立して村経営の根本義を定めて、これが実行に当たること。五年以内に産業振興計画をたてること。肥料はなるべく収穫期まで貸し付けること。
 ▽誉田村 耕地、山林の分配適正化をはかる。また、空地、宅地、あぜ道、池沼などの利用を推進すること。労働賃金の協調をはかるが、雇傭労力の使用は極力節減すること。農作業の処理、種畜、稚蚕の飼育など個々の経営では不利であるので共同経営の普及を徹底させる。生活用品を自給にして現金の支出をさける。各種災害の防止、共済積み立て、備荒貯蓄。農村更生計画上最も重要なことは負債の整理である。よって負債整理組合をつくること(これをみると誉田村当時、個々の家庭にかなり負債があったものと考えられる)。
 ▽更科村 小学校児童一人一兎主義の養兎を奨励し、副業の養兎を普及すること。副業として養豚も一戸一頭主義で奨励する。秋季校庭運動会当日、男女青年団大会の日を臨時娯楽休日とする。大祭、祝日はもちろんのこと毎月一日、十五日を一般休日とする。服装は質素を旨とし、男女その分度をもって、品位を下げない程度とする。
 ▽検見川町 経済自治の堅実な発展には納税を円滑にする必要がある。よって納税組合を設置し、納税上、遣憾のないようにする。
 ▽千城村 生産、副業、金融、負債、貯金など各般の基本調査を実施すること。各戸に栗、柿、梅三本以上を植栽させること。産業組合と協力して二年以内に農業倉庫を建設するようにしたい。そして米穀の販売、供給の調節をはかるようにすること。
 ▽幕張町 副業(養鶏、養豚、養兎、養鯉など)の奨励、農産加工と保存の調査研究、砂質と水深と稚貝発生および発育状況の研究、のり養殖の研究、於吾茶に関する研究、そのほか公共経済は萎縮に陥ることを戒しめ、積極的に事業に当ること。挙村一致ことに当り、その事業たるや常に公平均等を旨とすること。この協力一致、円満なことを「幕張精神」といっている。また、事故防止、青年訓練所補習学校の実績向上を強調している。
 ▽都村 本村の納税成績は、昭和元年から七年までの成績をみるに、農村不況時とはいいながら、逐年滞納者がふえている。そこで全村に納税組合を設定して、納税に努力するとともに納税奨励金を交付するなど対策を講ずること。農家経営簿の記帳を一般農家に普及奨励して経営改善の良否の目的を達成させる。
 経済更生計画実行委員会を設けること。農家組合の設置を指導する。健全な農村の発達をはかるには、一致団結した農家組合の設置が必要であるとしている。精神作興講演会の開催、水田は二毛作にして、れんげそうを毎戸栽培させること、そして二毛作の品評会の開催、水田には緑肥を反当たり三百貫(一、一二五キロ)畑には同じく四百貫施すこと。
 そのほか青年団に副業振興のための研究、産業部の設立をきめている。また女子青年団は毎年十二月一日から三月三十日まで女子補修教育を実施して、修身、国語、家事、裁縫、手芸などの講習会を計画している。
 ▽土気本郷町 大麦は価格暴落により小麦への転作を奨励する。大麦はできる限り水田の裏作とする。節酒節煙の励行。適当な副業に力を入れ、宅地空地利用を行い勤労生活を実行すること。ぜいたく用品の購入を廃止するなどとなっている。
 今後の経済更生計画推進のあり方として、『千葉県経済更生計画大観』は一〇項目をあげて、それぞれに目標とあり方を指適している。そのうちの二、三をあげてみる。
 ①張りつめた精神も日を経るに従ひ弛緩(しかん)し易き一般の通弊に留意し、適当の時期に全県下を通じて精神作興の日を設定し、日々の実行事項を定めて之が必行を強調。
 ②各町村に於て樹立せる経済更生計画は、部落本位、町村単位に樹立せらるるが、之を俯瞰(ふかん)的に見るとき、数カ町村、数郡或は県一円を通じて実施するを必要とする事項多々存するが故に、相当是正統一を図り、特に県、郡、町村区域の生産販売統制機関並経済更生委員会の機能発揮を促し、指導統制上誤なきを期せんとするものである。
 ③農村小学校教員は(中略)農村教育者としての修練を積み、単に児童のみならず更に青年成人の指導にまで一段の努力を払い農村の更生に資せんことを期するのである。

 農村更生計画とは別に千葉市では時局匡救の土木事業が推進されている。