港湾と土地造成の事業を実施するために通常生ずる損失の補償は、「電源開発に伴なう水没その他による補償要綱」(昭和二十八年四月十四日閣議了解)に準拠して行われた。すなわち同要綱の第二七条に漁業権・入漁権の価値は次の各号により算定した額とされている。
一 漁業権及び入漁権に基づく漁業による平年漁業収益額〔買収時前五年以上の平均漁獲収益額から、買収時の価格による年間漁業経営費(自家労働の評価額を除く。以下同じ)を控除した額〕を年利回りで除して得た額の八〇パーセントの額。
二 漁業権及び入漁権の一部が制限され、漁獲高の減少がある場合においては、平年漁業収益額から推定漁業収益額〔買収時以降における年間推定漁獲量に、買収時の魚価を乗じて得た額から買収時以降の年間漁業経営費を差引いた額)を差引いた額と、年利回りで除して得た額の八〇パーセント。
三 許可を受けて漁業を営む者及び免許または許可を要しない漁業を営んでいる者については、前二号に準じて算出した額。ただし、その漁業が兼業又は副業である場合は、第三二条により算出した額。
また、この補償要綱第二七条関係については次のような各省の申し合せ事項がある(昭和二十八年六月十六日)。
一 平年漁業収益額を算定する場合には、所得税の課税標準に用いたものを合わせ考慮して、その適正を期すること。
二 漁業を営む者とは、漁業を反覆して行い営業をしている者とすること。
千葉県はこれに基づき独自の補償要綱をもって漁業補償の対象を大きく二つに分けて行った。
その一は、免許漁業である漁業権、入漁権と、運用漁具による許可漁業、自由漁業を直接損失として、
その二は、直接損失として失われたことによって損失を生ずる産業を間接損失として考える。すなわち、間接的影響を受ける業態は、直接損失によって失われた地域をその主な本拠地として営業していた舟大工並びに貝類・藻類・魚類等の問屋業、あるいは漁具販売の資材業などで、これらについては職業転換の方策を中心に考えなければならないものであるため、漁業補償とは異なった見解をもって処理に当ったのである。
そして、補償額は通常次の算式で求められた。
(平年漁業粗収入-平年漁業経営費)÷0.08×0.8=補償額
この式の平年漁業収益を八分の年利回りで資本還元した八〇パーセントの値が補償額である算定は、平年漁業収益の一〇倍つまり一〇年分に相当するから永久的な補償であるとしている。
補償の対象となった面積は約二九〇ヘクタールでこのうち二〇六ヘクタールが共同漁業権漁場であった。
この約二九〇ヘクタールに対する補償額は千葉漁業協同組合の四八億円を最高に総計約一一六億五千万円であった。対象組合員が準組合員を含めて四、六七二人であったから、一人当たり約二五〇万円であった。
地区別一人当たりの平均をみると検見川漁業協同組合が約四二〇万円で最も高く、幕張漁業協同組合が約二八万円で最も少なかった。