千葉市からの購買力の流出

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 昭和三十年代の商業は発展途上にあって市民の購買力の流出はかなり高かった。昭和四十年代から商業勢力が強化されて購買力の吸収は強まったが、増加する人口の消費者行動が変化したので、依然として購買力の流出がつづいている。これは地方中心都市と異なって、千葉市は巨大都市の東京に距離的に近いことから、解消できない運命的な商業条件であった。

 昭和三十三年に千葉市役所が行った市民の買物調査によれば、市民の購買力の一三パーセントが東京都の百貨店に流出していた。このころは千葉市に百貨店は一店しかなく、専門店も発達していなかったので、洋服、高級呉服などや流行品は、時間をかけても東京で購入したのであった。昭和四十三年の千葉県中小企業指導所の調査によれば、千葉市民の購買力の八八・八パーセントを千葉市商業は吸収できるようになった。購買力の流出は一一・二パーセントに減少した。このうち東京へ流出した購買力は九・五パーセント、船橋市その他へ流出した購買力は一・七パーセントであった。購買力の流出率の一〇パーセント以上が東京商圏に属するとすれば、松戸市(四六パーセント)、柏市・船橋市(二〇パーセント)、習志野市・鎌ケ谷町・浦安町(一八パーセント)、八千代市(一七パーセント)、我孫子市(一三パーセント)、流山市(一二パーセント)、野田市(一〇パーセント)などが東京商圏内であった。千葉市は東京商圏からようやくぬけだしたということができた。

 昭和四十年代に千葉市の購買力が東京に流出することを弱めたが、また購買力の東京への流出はもりかえした。千葉市の人口は最近、六〇万人をこえたが、これは中心商店街から五~六キロメートルもはなれた地区に大規模な住宅団地が造成されて東京通勤者が激増したことが主因である。千葉市の人口増加は工業開発によるよりも、住宅都市化することによる部分が大きかった。千葉市が東京の住宅都市化の傾向を強めるにしたがって、東京への購買力の流出が増加しはじめたのであった。

6―66表 市民の購買先はどこか(昭和33年)
百貨店商店市外百貨店
回答数比率回答数比率回答数
洋服類2,32468.91,04731.1158
呉服類2,17464.51,19735.5137
布地類1,93957.51,43242.587
洋品類1,86555.31,50644.787
靴鞄類69820.72,67379.353
下駄傘類2076.13,16493.912
医薬類1053.13,26696.93
化粧品類69820.72,67379.325
荒物雑貨類3059.03,06691.03
金物瀬戸物類2627.83,10992.29
玩具類1,18735.22,18464.861
家具調度品1,15434.22,21765.862
肉類2306.83,14193.210
鮮魚類601.83,31198.2
青果類802.43,29197.61
その他の食料品63818.92,73381.120
菓子類46513.82,90686.220
6―67表 住宅団地世帯の購買動向(東部団地合計構成比)
○世帯主のご職業(単位 %)
経営者3.3
俸給生活者89.8
自由業1.1
その他5.8
○家族数(世帯主を含みます)
(単位 %)
1人0.8
2人11.7
3人32.1
4人40.1
5人10.7
6人3.3
7人1.1
8人0.1
9人0.1
○そのうち就業者数
(単位 %)
1人84.2
2人12.0
3人3.0
4人0.7
8人0.1
○就業者全体の年間総収入
(単位 %)
70万円以下22.4
70万~100万36.4
100万~150万31.5
150万円以上9.7
○世帯主のお勤め先(経営者の方は事業所)
(単位 %)
千葉市61.3
市原市3.8
習志野市1.6
船橋市2.4
市川市1.1
その他県内2.9
東京都24.8
その他2.1
○前住地
(単位 %)
千葉県内70.6
神奈川県2.7
大阪府0.4
山口県0.3
熊本県0.1
岡山県0.1
福島県0.1
東京都18.1
山形県0.4
静岡県0.4
栃木県0.1
長崎県0.1
大分県0.1
秋田県0.3
埼玉県1.9
福岡県0.4
茨城県0.3
富山県0.1
宮城県0.1
群馬県0.1
兵庫県2.1
新潟県0.4
愛知県0.3
岩手県0.1
鳥取県0.1
宮崎県0.1
○次の品物はいつもおもにどこでお買いになりますか。またその理由はなんですか。
(単位 %)
番号買物場所と理由買物場所(1つだけ○をつけて下さい)理由(該当するだけ○をつけて下さい)
商品名団地内店舖団地周辺商店市内デパート大型店市内中心街商店船橋東京その他安いからついでだから種類があるから品質がよい買物が楽しめるその他
1高級衣料品72.04.60.122.01.33.53.750.224.516.12.0
2実用衣料品3.13.480.89.72.50.514.813.747.77.612.53.7
3電気製品8.54.121.537.00.422.46.137.311.627.88.23.611.8
4家具調度品0.352.737.10.38.41.211.16.556.815.46.04.2
5時計・メガネ・装身具0.10.647.928.90.719.02.86.48.650.622.26.06.2
6書籍・雑誌32.88.312.136.70.37.72.11.660.225.10.51.611.0
7靴・履物12.74.534.738.80.18.40.813.825.643.97.65.43.7
8医薬品63.19.93.618.30.12.92.127.151.67.31.00.312.7
9化粧品49.29.615.617.20.34.04.111.053.111.55.93.515.0
10日用品雑貨73.111.610.14.60.30.310.765.57.21.02.013.6
11生鮮食料品84.811.42.50.80.44.966.41.92.40.823.6
12パン・菓子86.39.82.11.70.14.070.52.02.00.720.8
13一般食料品83.29.34.62.10.50.33.568.43.51.70.722.2
14飲食店31.86.826.831.41.81.42.556.38.55.03.424.3
15クリーニング69.521.82.43.50.42.418.955.20.31.10.224.3
16理容・美容69.011.63.610.10.32.92.57.458.70.41.70.431.4

(『千葉市広域商業診断報告書』昭和45年)

6―68表 住宅団地世帯の購買動向(西部団地合計構成比)
○世帯主のご職業
(単位 %)
経営者2.4
俸給生活者94.3
自由業1.8
その他1.5
○家族数(世帯主を含みます)
(単位 %)
1人
2人13.9
3人38.1
4人28.1
5人17.6
6人2.0
7人0.3
○そのうち就業者数
(単位 %)
1人87.3
2人10.6
3人1.5
4人0.6
○就業者全体の年間総収入
(単位 %)
70万円以下18.6
70万~100万53.6
100万~150万23.3
150万円以上4.5
○世帯主のお勤め先(経営者の方は事業所)
(単位 %)
千葉市19.1
市原市2.3
習志野市1.2
船橋市1.4
市川市2.9
その他県内0.9
東京都72.2
○前住地
(単位 %)
千葉県内28.3
神奈川県5.3
愛知県2.4
岐阜県0.5
兵庫県0.3
北海道0.9
鹿児島県0.6
東京都56.5
埼玉県2.4
大阪府0.9
福岡県0.6
茨城県0.3
新潟県0.3
青森県0.3
福島県0.3
岩手県0.3
(単位 %)
番号買物場所と理由団地内店舖団地周辺商店市内デパート大型店市内中心街商店船橋東京その他安いからついでだから種類があるから品質がよい買物が楽しめるその他
商品名
1高級衣料品0.60.339.10.30.658.50.62.721.337.917.917.52.7
2実用衣料品3.45.866.79.51.212.80.615.313.839.18.316.27.3
3電気製品1.54.012.211.90.667.12.749.18.223.07.46.06.3
4家具調度品0.37.241.917.20.929.43.17.68.941.620.29.512.2
5時計・メガネ装身具3.726.29.360.88.612.131.521.018.09.0
6書籍・雑誌16.026.69.415.70.329.92.11.258.715.80.613.110.6
7靴・履物4.28.727.518.90.338.91.514.921.138.67.910.86.7
8医薬品41.221.74.412.81.317.31.315.262.32.01.00.718.9
9化粧品18.813.424.29.00.916.417.318.044.99.53.15.119.4
10日用品雑貨64.123.65.74.50.31.50.320.562.53.90.80.412.0
11生鮮食料品71.124.31.41.70.30.60.61.060.52.73.30.323.3
12パン・菓子69.823.01.22.10.33.30.35.264.92.80.70.725.7
13一般食料品68.423.42.31.50.31.52.612.060.23.71.01.022.1
14飲食店29.330.411.116.20.412.649.417.26.34.023.1
15クリーニング45.940.01.03.41.62.55.628.742.31.028.0
16理容・美容30.844.31.94.60.316.91.26.252.60.73.00.736.8

(『千葉市広域商業診断報告書』昭和45年)

 これは千葉市の人口を増加させた流入人口の購買慣習が、在来の千葉市民のそれとは異質的であったことによる。流入人口の出身地をみれば、県内各地からの流入は三分の一でもっとも多いが、残りは東京・関西・九州・東北地方であった。特に東京から移住してきた人口はもっとも多く、その世帯の中に東京通勤者があり、その購買慣習は都会的選択買いと過剰サービスに馴れ、大型店・百貨店・専門店で買物をしている。関西・九州から流入した人口は購買単位が合理的・経済的であり、千葉市の商店の接客のしかたと異なる商店から買物をしている。したがって住宅団地の人々は、最寄り品などの日常生活品や飲食料品を、団地商店街において購入し、買回り品、贈答品などは東京の百貨店・大型店において購入する。中心商店街の商店や百貨店からの購買は、かならずしも多くはない。千葉市の住宅団地は東部と西部に多いが、これらの団地の人々は交通の便によって購買志向が大きく異なっている。中心市街より東部の内陸にある住宅団地の人々は、買回り品、贈答品を中心商店街の大型店・百貨店から購入することが比較的多い。これに対して中心市街より西部の内陸にある住宅団地の人々は、東京出身者が多く、東京に勤務する人々が大部分であり、その人々は購買志向を買回り品、贈答品について圧倒的に東京にむけている。西部の住宅団地の人々の購買力が東京に志向することは、出身地が東京であることや交通機関が東京行きに便利であることだけが原因ではない。東京の百貨店・大型店・専門店などにくらべて、千葉市のそれらは見劣りしていること、高級品が少なく、流行のテンポがおくれるのでその販売がおくれてはじまること、千葉市の百貨店は雑貨屋が大型化したようにバーゲンセールを競争していると批評されていること、などもある。商店街や百貨店の現代化に努力がたりない商業者にも原因がある。