刑法犯罪の概況

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 犯罪は、常にその時代の世相を如実に反映するものであって、犯罪をみれば、その時代の世相を知ることができるし、逆に世相をみることによって、どんな犯罪が多く発生するかも予測することができるといわれる。犯罪の発生と社会環境との関係は深く、良好なる社会環境の維持は、犯罪防止の重要なきめ手とさえいわれる。

 六―一四四表は、刑法犯罪について、自治体警察の時点(昭和二十四年度)、千葉県警察に統合された時点(昭和三十一年度)、南署が分離独立した直後の時点(昭和三十八年度)及びそれ以後といった観点で、大づかみに犯罪の傾向をさぐろうとしたものである。

6―144表 千葉市内刑法犯罪の傾向
年度警察署管内人口
(住民登録人口)
警察官数刑法犯人口1,000人当り犯罪率検挙率(%)警察官一人当たり刑法犯認知負担
認知件数検挙件数
24千葉市署
(自治警)
127,6301684,9243,34338.567.829.3
31千葉署207,9102023,6251,92417.453.017.9
38中央署219,6162464,8812,33522.247.819.8
南署62,136741,27167320.452.117.1
281,7523206,1523,00821.848.919,2
42中央署288,3783094,4581,60415.436.014.4
南署80,019731,02148012.747.013.9
368,3973825,4792,08414.838.014.3
47中央署407,0823466,7472,51516.637.319.5
南署109,324931,0614619.743.411.4
516,4064397,8082,97615.138.117.8

 終戦直後にあって、精神が荒廃し世相の混乱していた昭和二十四年度は、人口に比して犯罪認知件数(犯罪と思われる事件を認知した数)は多く、千人当たりの犯罪率や警察官一人当たりの認知負担は、三八・五人及び二九・三件を示し、戦後最高の数字になっている。罪種別には、窃盗・強盗・恐喝・詐欺・横領などといった財産犯罪が卓越し、なかでも窃盗罪は、全認知件数の半数に近い件数を示しており、終戦直後の食糧難をはじめとする生活物資の窮乏やインフレーションの進行による生活苦の実情がこの面からもうかがい知ることができる。

 昭和三十一年度にもなると世相も一応落着き、人口千人当たりの犯罪率や警察官一人当たりの認知負担は、一七・四人及び一七・九件で、昭和二十四年度に比して大幅に減少してきている。罪種別には、窃盗罪が依然として認知件数の大半を占めているが、傷害罪、暴行罪などの粗暴犯罪の増加が目だってきている。

 昭和三十七年に南署が設置され、千葉市の治安が中央・南の両署によって分担された結果、警察力は一層機動性を発揮するようになった。犯罪率及び警察官一人当たりの認知負担は、昭和三十八年度をピークとして、次第に下降線を辿り、昭和四十二年度は著しく安定し、その傾向は現在までも続いてきている。

 また、観点をかえて、千葉市及び千葉県の刑法犯罪の傾向を、全国並びに関東管区(千葉・神奈川・埼玉・茨城・群馬・栃木・静岡・山梨・長野・新潟の一〇県)との比較においてとらえてみると、六―一四五表に示すとおりである。

6―145表 全国及び関東管区との比較による刑法犯罪の傾向
警察署全国関東管区内千葉県中央署南署
区分
認知件数件数45年度1,279,787285,80938,0926,2951,109
46年度1,244,168284,35939,4056,175872
増減率(%)-2.8-0.5+3.4-1.9-21.3
検挙件数件数45年度710,078142,14816,6223,110490
46年度690,027139,78517,0682,827451
増減率(%)-2.8-1.7+2.7-9.0-7.9
検挙人員件数45年度380,85074,3667,5131,096269
46年度361,97272,2147,8991,047222
増減率(%)-5.0-2.9+5.1-4.5-17.4

(「犯罪統計概要」県警昭和46年度)

 全国及び関東管区内とも昨年同期に比して、認知件数は、二・八及び〇・五の各パーセント減を示し、わずかながら減少の傾向をみせているのに対し、本県は、逆に三・四パーセント、件数にして一三一三件の増加をきたしている。また、県下最大の犯罪多発地域をもつ千葉中央署についてみると、昭和四十三年度は前年に比して六・六パーセント増、昭和四十四年度は大幅に増加して二九・三パーセント、昭和四十五年度はやや増加がにぶって二・三パーセントを示したが、昭和四十六年度に至って伸びもとまり、逆に一・九パーセントの減少をきたしている。南署も同様に、昭和四十六年度は前年に比して、二一・三パーセントと大幅に減少をみせている。これに対し、検挙件数の増減率については、全国・関東管区内とも、二・八及び一・七パーセントの減少をみせているのに対し、本県は、二・七パーセントの増を示し、捜査活動に実績をあげていることがわかる。しかし、中央・南署については、九・〇及び七・九パーセントの減少をみせている。また検挙人員については、本県は、全国・関東管区にくらべ五・一パーセント増をみせているが、中央・南両署とも減少し、特に南署の減少率の高さは注目される。なお、認知件数に対する検挙件数の割合をみると、中央署は、四九パーセント(昭和四十五年度)から四五パーセント(昭和四十六年度)に落ちこみ、逆に南署は、四四パーセントから五一パーセントと検挙率は高まっている。

 本県にみられる認知件数の増加は、最近のめざましい工業化・都市化による人口増と関連し、犯罪認知件数の多寡は、人口分布の濃淡に比例して相違がみられる。県下各警察署ごとにその態様をまとめてみると、六―七九図にみられるとおりである。

6―79図 警察署別刑法犯罪認知件数(昭和47年度)

 分布図にみられるように、犯罪発生の多い地域は、千葉中央・船橋・市川・松戸・柏の各署にわたる京葉・東葛地域である。昭和四十七年度千葉県刑法犯認知件数四万二二三件のうち、京葉地域(市原署から市川署にかけた内湾ぞいの地域)は、二万〇二三七件で、全体の五〇・四パーセントを占め、東葛地域(松戸・柏・野田署管内)は、七、一八九件で、全体の一七・八パーセントである。この両者をあわせると、二万七四二六件になり、県全体の六八・一パーセントに当たる犯罪が京葉・東葛地域において発生していることになる。なお、この地域は、人口の過密地域であり、県全体の六二パーセントに当たる約二二二万人の人口がここに集中している。

千葉刑務所

 県下各署について、犯罪認知件数の多い順にみてみると、最大の犯罪発生地域は、千葉中央署管内で、認知件数は、六、七四七件、県全体の一六・七パーセントを占め、ついで船橋署の四、八五一件、一一・八パーセント、つぎに市川署の四、〇五〇件、一〇・一パーセント、そして松戸署の三、六九八件、九・一パーセントになっている。なお、千葉南署は、前年の八七二件に対し、一、〇六一件で一八九件の増をみせている。

 千葉市に発生している刑法犯罪の状況を、罪種別認知並びに検挙状況によってみると、六―一四六表のとおりである。

6―146表 千葉市内 刑法犯認知並びに検挙状況(昭和47年度)
罪種別凶悪犯粗暴犯窃盗犯知能犯風俗犯その他刑法犯総数検挙率
内訳殺人強盗放火強姦兇器準備集合暴行傷害脅迫恐喝窃盗詐欺横領偽造涜職背任賭博強制わいせつ公然わいせつ
わいせつ物
公務執行妨害失火住居侵入その他
殺人傷人強姦普通
千葉中央認知件数11082166210371696766,00717625114104824111540336,747(%)
検挙件数10062118210311535651,87417827101204412111425322,51537.3
検挙人員22091124180341864526025519212022511111624261,147
千葉南認知件数000031907220895731610003103361,06143.4
検挙件数00000090721111387430000410337461
検挙人員00000012082016117320000110337184
認知件数11082197300441916846,964207311241041125111843397,80838.1
検挙件数10062118300381746762,26118230101204813111728392,976
検挙人員22091124300422065587195821212022612111927331,331
県全体認知件数392307643515112541,0163134636,0861,042129747218869845412120921840,22341.7
検挙件数402193323811511858342425313,73257197606816453935311912517616,758
検挙人員6012022420159482291,132182303,48920678457313113591881131131896,775
(注) 事務上過失致死傷(交通)を除く。

 昭和四十七年度において、市内で発生した刑法犯罪の総数は、七、八〇八件で、そのうち三八・一パーセントに当たる二、九七六件が検挙されている。犯罪のうち、もっとも件数の多いものは窃盗罪で、全犯罪の八九パーセントを占め、その手口は、空巣ねらい、忍び込み、自転車盗み、車上ねらい、万引きなどがめだっている。窃盗犯についで多いのは粗暴犯で、傷害・恐喝・暴行の順に件数が高い。また、凶悪犯罪についての顕著なあらわれは、殺人罪と強姦罪の急増で、殺人罪は、昨年に比して二倍になっている。なお、強盗による傷害も倍増している。一方、千葉港の貿易量の増大にともない、特別法犯罪も多く発生するようになり、昭和四十七年度において、関税法違反による検挙二件、大麻取締法違反による検挙二件、覚せい剤取締法違反による検挙五件となっている。